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一次相続二次相続ってなに? 先のことまで考えることで「相続税」を抑えられた

2023/6/30

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この相続事例の体験者

この相続事例の体験者

谷村 英樹(仮名)

神奈川県在住。47歳。父の相続の際に相続税の支払いを抑えるために母のみを相続人にすることを考えたが、将来の相続まで考えることで、さらに節税できることを知る

節税を考えて出した答えは「配偶者による全額相続」

3年前に父が亡くなった際、相続人は母と兄と私の3人でした。相続財産は、評価額3,000万円程度の実家と3,000万円程度の銀行預金。実家には母が住んでいました。

遺産分割の方針を話し合った際、母と兄の間で意見の相違がありました。「私は年金でやっていけているし、自分の預金も1,000万円程度ある。家は私がもらいたいけど、預金はあなたたち2人で半分ずつに分ければ?」という母。これに対し、兄は「配偶者である母さんが全財産を相続すれば、特例で 相続税 がかからないらしい。俺たちは母さんが亡くなった時にもらうから、今回は母さんが全部相続してよ」という意見。私は、「相続税がかからないなら、その方がいいか」と思い、兄の意見を後押ししました。「そういうことなら、そうしようか」と母も納得し、母が父の全財産を相続する方針がまとまりました。

税理士が気づかせてくれた「次の相続までトータルで考える」視点

遺産分割協議書 の作成を依頼した司法書士にこのことを話すと「『配偶者の税額軽減の特例』を使うには、相続税の申告が必要ですよ」とのこと。自分たちでは申告が難しいと思い、税理士を紹介してもらいました。

私たちの話を聞いた税理士は、「確かにお母様が全財産を相続すれば、今回の相続では、相続税はかかりません。ただ、お母様が将来亡くなった際に相続される財産は、今回相続するお父様の相続財産にお母様ご自身の預金をあわせ、7,000万円程度になります。お母様の財産を仮に息子さんたち2人で1/2ずつ相続した場合、相続税の総額は320万円程度、1人あたり160万円程度の税負担と試算されます」と説明してくれました。

「一方、当初のお母様の案に基づき、ご実家をお母様、預金を息子さんたちが1/2ずつ相続した場合、『配偶者の税額軽減の特例』により、お母様には相続税がかかりません。息子さんたちには相続税がかかりますが、相続税の総額は60万円程度、1人あたり30万円程度の税負担と試算されます。そして、お母様が将来亡くなった際に相続される相続財産額は4,000万円程度となり、基礎控除額を下回る可能性が高く、2人には相続税がかからないと考えられます」

税理士の話を聞いて、私たちは目から鱗が落ちる思いでした。つまり、将来的なところまでトータルで考えた場合、今の時点で3人で相続し相続税を払った方が、相続税負担は少なかったのです。

二次相続までをトータルで考え、父の遺産は3人で分割し相続税を納税

私たちは、税理士のアドバイスに従い、当初の母の案に基づき、父の遺産を分割し、兄と私は30万円程度ずつ相続税を納税しました。そして、昨年末に母が他界。二次相続の相続財産額は基礎控除額の範囲におさまり、私たちに相続税の申告・納税は必要ありませんでした。

担当した専門家が解説!
「ここがポイント」

夫婦と子で構成される家族で、最初に夫婦の一方が亡くなった場合の相続を「一次相続」、その後、残された一方が亡くなった場合の相続を「二次相続」といいます。遺産分割にあたっては、一次相続、二次相続のトータルでの相続税額を考えた場合、どのような遺産分割をおこなうのが得策か?という視点が必要です。

配偶者の恩恵が受けられる「配偶者の税額軽減の特例」は、「①配偶者が取得した財産が1億6,000万円」「②配偶者の法定相続分相当額」のどちらか多い金額までは配偶者に相続税がかからないという制度です。例えば、夫が先に亡くなった(一次相続)として、夫の相続財産額が1億6,000万円以下、且つ妻が全財産を取得した場合には、妻にも子にも相続税はかかりません。

しかし、二次相続においては、一次相続と比べ基礎控除額が小さくなります。また、二次相続の際には、夫の財産と妻の固有の財産をあわせた財産を子が相続することになります。相続財産額が大きくなると、相続税の税率が高くなるため、二次相続時に子が負担する相続税額は大きくなってしまう可能性があります。結果として、「一次相続時に子も夫の財産を相続し、それに見合った相続税を支払っておいた方が、一次相続、二次相続トータルでの相続税額を小さくすることができた」ということが起こり得るのです。こんなことにならないよう、本事例のように、一次相続の段階から相続に詳しい税理士に相談し、遺産分割の内容を考えていくやり方をおすすめします。

なお、「配偶者の税額軽減の特例」を適用するためには、適用後の相続税額がゼロになる場合でも、相続税の申告手続きが必要になりますので、忘れないように注意が必要です。

解説者プロフィール

足立 賢亮

税理士法人アイユーコンサルティング

東京事務所 マネージャー 税理士

足立 賢亮

国内大手税理士法人から2019年に入社。入社後の相続税申告は300件に及ぶ。相続対策、法人顧問、個人顧問、組織再編を伴う資本政策等、幅広い業務に対応しており、丁寧かつスピーディーな仕事振りでお客様とのコミュニケーションを得意とする。


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