イエツム

相続のこと、もっとわかりやすく。
もっとスムーズに。

他の相続人の意向に惑わされて相続放棄できず、混乱の渦中に巻き込まれ体調不良に

2023/3/27

シェアする
  • Facebook
  • Twitter
  • LINE

この相続事例の体験者

この相続事例の体験者

坂本 恵子(仮名)

埼玉県在住。58歳。
父のアドバイスもあり相続放棄を決めていたが、姉からの反発もあり気が付けば手続きの期限を超え、相続することに。案の定ゴタゴタに巻き込まれ体調を崩すこととなり、父のいうことを聞いていればと後悔。

生前の父のアドバイスもあり、決めていた相続放棄

私は、四国の出身で4人姉妹の末っ子です。高校卒業を機に上京して以来、ずっと首都圏で暮らしていますが、3人の姉たちは、今も実家の近くに住んでいます。母は私が幼いころに亡くなりましたが、父は91歳まで長生きしました。

実家は地主の家系で、不動産をたくさん所有していますが、農地や山林、権利関係が複雑な土地など、管理や処分が難しい不動産も含まれます。父の具合が悪くなった後、私は頻繁に帰省し、父を見舞っていました。病床の父は、「お前、この辺の面倒臭い土地を相続しても困るだろ?かといって、都合よく預金だけ相続したら、姉たちがうるさいぞ。俺が死んだら、お前は迷わず相続放棄しろ。それがお前にとって一番幸せな選択肢だから」と、事あるごとに言っていました。私もその通りだと思い、私にとって相続放棄は既定路線でした。

姉からの思わぬ反発と近づく期限。そして、取り返しのつかないミスを・・・

父が亡くなり、四十九日の法要が終わった後、私は、相続放棄したい旨を姉たちに伝えました。すると、思わぬ反発が。「お父さんは末娘のあなたを一番かわいがっていたのに、相続放棄なんて、親不孝でしょ」「面倒な相続から自分だけ逃げようなんて、そうは問屋が卸さないからね」「相続はチームワークが大事。4人で協力してやらないと」3人の姉たちに口々に言われ、私は黙り込んでしまいました。

相続放棄の手続きの期限は、相続を知ってから3ヶ月ということは、知っていました。しかし、期限がどんどん近づく中でも、私は姉たちの機嫌を気にして、動けずにいました。

そんなある日、長姉から信用金庫の相続手続きに関する書類が郵送されてきました。「私たち姉妹4人全員の署名捺印をそろえて持って行けば、お父さんの預金が解約できるって。だから実印を押して印鑑証明と一緒に送り返してよ」との電話もあり、私は深く考えることもなく、長姉の言う通りに署名捺印し、書類を返送しました。

後で聞いたのですが、この行為は、相続を認めたことになるそうです。私の相続放棄への道は事実上、閉ざされたのでした。

気が付けば、混乱の渦中に。体調を崩し、弁護士に代理人を頼むことに

結局、私は相続放棄の期限までに何もできませんでした。父のアドバイス通り相続をめぐるゴタゴタには巻き込まれたくなかったのに、気が付けば、私は出口が見えない混乱の渦中にいました。

「ひいおじいさんの名義のままの土地があった」「どの司法書士を使うかで3人で揉めている」「長姉と次姉が争っているので、仲裁して欲しい」「相続税の納税資金が不足するかもしれない」「あの山あなたがもらってよ」といった電話が毎日のように入り、その度に「あなたは当事者意識が足りない」と責められます。私はとうとう体調を崩してしまいました。

見かねた息子が弁護士を探してくれ、今は弁護士に相続手続きに関する代理人になってもらう話を進めています。なぜ、意思を貫いて相続放棄できなかったのか?悔やんでも悔やみきれません。

担当した専門家が解説!
「ここがポイント」

相続財産には、借金や連帯保証債務などの負の財産が含まれる場合があります。山林や別荘、遠隔地の空き家など、管理や処分が難しい不動産も事実上の負の財産といえるかもしれません。負の財産を相続したくない場合、相続放棄が有効です。相続放棄をした人は、最初から相続人ではなかったと見なされ、一切の財産を相続できなくなります。

相続放棄をおこなう場合、被相続人が亡くなり、自分が相続人であることを知った時から原則3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出する必要があります。相続放棄は、相続人個人の権利ですので、他の相続人の意向にかかわらず、自分1人だけで手続きを進めることが可能です。本事例の場合、お姉さまの意向に惑わされず、期限内に手続きを終えておくべきでした。

また、被相続人宛の請求を支払ってしまった場合、相続財産の名義変更手続きをおこなってしまった場合などは、相続を認めたことになり、相続放棄ができなくなってしまいます。本事例の場合、金融機関の手続き書類に署名捺印をしてしまったのも致命的でした。

判断に迷う場合は、私たち専門家に早めにお問い合わせください。

解説者プロフィール

木下 正一郎

きのした法律事務所

弁護士

木下 正一郎

1990年、早稲田大学卒業後、一般企業に勤務。2001年、弁護士登録。2004年10月、きのした法律事務所開業。医療問題、医事事件に強く、相続問題、成年後見、不動産問題等への対応にも定評。東武練馬駅に近い事務所には、近隣住民からの相談も多く、気軽に相談できる「地元の弁護士事務所」としてリーガルサービスの提供に努めています。


この記事にまだコメントはありません

週間アクセスランキング