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後悔先に立たず!「遺産分割協議」を書面化しなかったことで母が家を失う危機に

2023/5/2

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この相続事例の体験者

この相続事例の体験者

金山 美咲(仮名)

神奈川県在住。41歳。
遺産分割協議の内容が書面化されていなかったことから、叔父がその内容を翻し、自身の相続権を主張。相続トラブルに発展。

父が急死したことで叔父が横やり!遺産分割協議の内容と違うことを主張

「おばあちゃんが亡くなった後も、私はこの家に住み続けられるのかしら」

ある日、近所にある実家に立ち寄った際、そこで祖母と暮らす母がポロリと漏らした一言に、私は大きな不安にかられました。

母が住んでいる家は祖父が建て、30年前に祖父が死んでからは祖母と両親、それに私が住んでいました。私が結婚し、新居に移り住んでからほどなくして、ある日突然、脳溢血で父が死去。それからは祖母と母が2人で住んでおり、長男の嫁である母はかいがいしく祖母に尽くし、介護をしています。

家の名義は祖父のままですが、祖父が亡くなった際、親族同士で 遺産分割協議 をしたときは、「家はまず祖母が相続し、祖母の死後は長男である父がすべてを相続する」ということになっていたそうです。しかし父が早くに亡くなったことから、祖母が亡くなったら「この家は誰のものになるのか」と母は思っていたようです。

そんな矢先、父の弟である叔父が、祖母が亡くなったら、「土地と建物を売却して、 法定相続分 として半分は僕がもらおうと思っている」と言ってきたというのです。

「そうなってしまったら、私はどこに住んだらいいのかしら」と悲しげにうつむく母。

それを聞いた私は、以前から仲良くしている、司法書士のもとへ駆け込みました。

お互いに証拠が無いため水掛け論に

私は司法書士に、事の次第を説明しました。

まず、「長男がすべてを相続する」と決まっていたのに、それを今さら「次男も法定相続分を」と言うのはおかしいということ。また、祖父が生前「次男が結婚して家を建てる際に資金を援助した」と言っていたので、祖父としては長男が自分の家を相続する代わりに、その資金援助を次男への 生前贈与 と考えたのではないかと推測を伝えました。

すると司法書士は、「もし、おじいさまからの生前贈与があるのなら、それを叔父さまの『特別受益』として、法定相続分から差し引くことができます※」と指摘してくれました。

※但し、2019年7月1日以降に被相続人が死亡した場合は、民法改正により、特別受益となる贈与は原則として被相続人の死亡前10年以内に限られることになりました。

しかし、叔父に祖父からの生前贈与について問いただしたところ、「たしかに資金援助はしてもらったが、それはすでに全額返済した」との言い分です。「それならその証拠を見せてほしい」と言い返しましたが、祖父が亡くなった際に決まった「祖母の死後は長男がすべてを相続する」とした証拠も実は無く、言った言わないの水掛け論になってしまいました。

そもそもの原因は遺産分割協議を書面化しなかったこと

今回、このような事態に陥ったのは、そもそも祖父が亡くなった際の遺産分割協議を書面化しなかったことが原因です。誰に何をどれだけ分けるかを事細かに記した書面があれば、叔父も今回のように横やりを入れてくることはなかったでしょう。

また、事情をすべて把握している父が存命だったら、叔父も何も言ってこなかったかもしれません。しかし、父は脳溢血であっという間に亡くなり、遺言書も残せなかったため、どうしようもありません。

不安げな母を見るたびに、私は天国にいる父に、文句の一つも言ってやりたくなる、そんな憤りある日々を過ごしています。

担当した専門家が解説!
「ここがポイント」

遺産分割協議は「書面化」が重要です。今回のケースのように、口頭で合意しても、年月が経つと、当時の詳しい事情や経緯を知る人がいなくなり、再度の話し合いが困難になることが多くあります。また、親族間にありがちな、書面を交わさず口約束でおこなった金銭の貸し借りなどは、立証することが難しいです。

遺産分割協議書の作成は、義務でもなく決められた書式もありませんが、協議の内容を的確に記して、その下に相続人全員が署名し、実印を押して、印鑑証明書を添付すれば、不動産の名義変更や金融機関での預金の解約をすることができます。今回のケースでも、もし遺産分割協議書があれば問題は起こらなかった可能性が高いです。のちのトラブルを防ぐためにも、しっかり書面化しておきましょう。

解説者プロフィール

吉田 崇子

吉田司法書士事務所

司法書士

吉田 崇子

2006年に吉田司法書士事務所を開設。不動産登記(売買、相続、贈与など)、商業登記(会社設立、役員変更など)、成年後見、遺言書の作成など時間をかけてご相談者に寄り添いながら最善の解決方法を提案させていただくことを心がけています。


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