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曖昧な言葉を使用した「遺言書」は無効に!事前確認の重要性を痛感

2023/4/28

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この相続事例の体験者

この相続事例の体験者

木下 知美(仮名)

神奈川県在住。42歳。
叔母の生前に、全財産を自分に相続させる旨を聞き、遺言書も用意されていたが、叔母が亡くなり手続きをしようとすると、遺言書の書き方が曖昧で実質無効であることが判明。

叔母が私のことを思って作成してくれた自筆証書遺言に感激

叔母は、ひとりで暮らすいわゆる「おひとりさま」。近所に住む姪の私が何かと面倒を見ていました。ある日、叔母から封筒1通とA4判の紙1枚を手渡されました。「封筒の中身は自筆の遺言書。私の全財産は、この自宅とS信用金庫の預金だけ。私が死んだら、全部あなたにもらって欲しい。それから、この紙は遺言書のコピー。念のため、専門の先生に見てもらって。書き方が間違っていたら、書き直すから」

私は、叔母がちゃんと私のことを思っていてくれたことに感激し、涙を浮かべながら何度も叔母にお礼を言いました。ただ感激のあまり叔母からの注意を心に留めず、遺言書の内容を専門家に確認してもらうことはありませんでした。

検認が終わると、いたたまれない心境に

叔母が亡くなったのは、それから約1年後。葬儀や納骨を済ませた後、私は遺言書を家庭裁判所に提出し、 検認 を請求しました。私の母を含め、叔母のきょうだいは全員他界しており、相続人は叔母の甥・姪たち。私を含め、合計6人です。

検認期日には、遠方在住の人、都合がつかない人を除き、4人が家庭裁判所に集まりました。「自宅とS信用金庫A支店の預金を姪である私に委ねる」という遺言書の内容が明らかになると、全員が白けた視線を私に向けました。「何のために裁判所まで来たんだか!」と聞こえよがしに言う人もいて、いたたまれない気持ちになりましたが、その場は何とか耐え、検認の手続きを済ませました。

遺言書は有効。でも表現に問題があり相続登記ができない!

検認を済ませた後、どのように叔母の自宅の名義変更手続きを進めれば良いかわからず、私は、司法書士に相談しました。遺言書を見た瞬間、顔を曇らせる司法書士。

「遺言書は有効だと思いますが、『委ねる』という表現はまずいですね。曖昧な表現は別の解釈も可能となってしまうので、これでは、相続登記は難しいと思います。基本的に、もらう人が相続人である場合は『相続させる』、相続人以外の場合は『遺贈する』といった、はっきりとした表現でないといけません。これだと信用金庫の手続きも難しいかもしれませんよ」とのこと。

ダメもとで相続登記の申請をしてもらいましたが、やはり相続登記はできませんでした。司法書士と対応を協議した結果、せっかく叔母が遺してくれた遺言書は使わず、 遺産分割協議 をおこなうことにしました。

何とか自宅を相続できたが、心身ともにボロボロに

遺産分割協議は、相続人全員の同意が必要です。私は、検認の際の相続人たちの様子を思い出し、ストレスで思わず吐き気を覚えましたが、やるしかありません。

案の定、遺産分割協議では不快な感情を露わにする人ばかり。結局、約1,500万円の信用金庫の預金を私以外の相続人5人で均等に分割。私が自宅を相続することで落ち着きましたが、心身ともにボロボロになりました。叔母に言われた通り、遺言書の内容を専門家に確認してもらっておけば、こんなことにはならなかったのに、と今でも後悔しています。

担当した専門家が解説!
「ここがポイント」

自筆証書遺言の場合、法的に有効でも、書かれている表現によっては相続登記に支障をきたす場合があります。本事例のように、財産を「委ねる」「託す」「与える」などと書かれている場合、法務局は登記原因が特定できず手続きできません。このような場合、①遺産分割協議をおこなう、②曖昧な部分を明確化するための上申書を提出する、といった対応が必要になりますが、いずれも相続人全員の実印での押印が必要となります。快く協力してくれない相続人がいるケースも多く、トラブルに発展することも。これでは、遺言書を作成した意味が大きく損なわれてしまいます。

また、今回のような法務局の自筆証書遺言保管制度を利用していない自筆証書遺言の場合、検認を経なければ、相続手続きに活用することができません。本事例のように、家庭裁判所で顔を合わせた他の相続人との間で気まずい思いをすることも多いようです。法務局の自筆証書遺言保管制度を利用した場合、検認は不要となりますが、法務局が内容をチェックしてくれるわけではないので、無効な遺言書、登記に支障をきたす遺言書であるリスクが残ります。

一方、公正証書遺言は作成費用がかかりますが、検認は不要です。法律のプロである公証人が作成するため、内容についても安心できます。これから遺言書を作成される方には、公正証書遺言を強くおすすめします。

解説者プロフィール

廣木 涼

司法書士事務所アベリア

司法書士

廣木 涼

大手司法書士法人で約5年の勤務、相続事業部のマネージャーを務め、独立。 不動産会社や保険会社など様々な業種と連携しながら、士業の枠に捉われず、多角的な視点から、遺言・家族信託等、生前の相続対策に関する総合的なコンサルティングサービスを提供しています。


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