イエツム

相続のこと、もっとわかりやすく。
もっとスムーズに。

受け取ったときに「遺言書」の知識があれば!法的に無効で18人での遺産分割協議が必要に

2023/7/31

シェアする
  • Facebook
  • Twitter
  • LINE

この相続事例の体験者

この相続事例の体験者

神山 寛子(仮名)

埼玉県在住。42歳。
叔母から全財産を遺贈する旨の遺言書をもらっていたが、書式に不備があり無効に。結果、自分を含めた親戚18人で遺産分割協議をおこなう事態に。

叔母から渡された遺言書。日付や署名がなく有効性が心配に

88歳で亡くなった叔母は、8人きょうだいの末っ子でした。叔母には子供がいなかったこともあり、叔母にとって姪である私をわが子のように可愛がってくれました。叔母は早くにご主人を亡くし、ひとり暮らしをしていましたが、介護が必要になってからは、私は毎日のように叔母の家を訪ね、ケアマネジャーや訪問看護師との窓口も務めていました。

亡くなる半年ほど前、叔母から「これは 遺言書 だから」と便箋を1枚手渡されました。便箋には、以下のような内容が記載されていました。

「寛子ちゃん(私)へ。いつも本当にありがとう。大した金額じゃないけれど、私が死んだら、お金は全部あなたがもらってください」。

日付も記載されていなければ、叔母の署名・捺印もありません。遺言書の正しい知識は無いものの、さすがにこれは「遺言書として問題ないのかな?」と疑問で、「ちゃんとした書式で書き直してもらった方が良いのでは?」とも思いましたが、とりあえずもらっておくことにしました。

やはり法的に無効だった「遺言書」

やがて叔母は亡くなり、私は葬儀や賃貸マンションの退去手続き、役所関係の諸届などを済ませました。問題は遺産相続です。叔母の遺産は銀行の預金のみで、残高は500万円程度でした。私は遺言書を持って、預金の引き出しと解約について銀行の窓口に相談に行きました。窓口の担当者は、遺言書を見るなり、「これはちょっと」と苦笑し、「一度、専門の先生にご相談された方がいいと思います」と司法書士を紹介してくれました。

 司法書士に確認してもらったところ、叔母の遺言書は法的に無効で、相続人全員による 遺産分割協議 が必要とのことでした。私の母を含め、叔母のきょうだいたちは全員他界しているため、その 代襲相続人 たちが相続人になります。私と私の妹を含め、その数はなんと18人。数人を除いては全く交流がなく、連絡先さえわかりません。私は途方に暮れました。

叔母の遺志は通ることなく、私はなくなく法定相続分のみを相続

司法書士によれば、連絡先がわからない相続人については、戸籍の附票で住所を確認することができるとのこと。私は、司法書士に連絡先がわからない相続人の住所の確認を依頼し、判明した住所宛に叔母の相続への協力を要請する旨の手紙を出すことにしました。

結局、法定相続に従い、18人で均等に叔母の預金を分割することになりました。「叔母の介護に尽くした相続人は私だけ。叔母には預金全額を私に譲りたいという意思があったのだから、せめて半分くらいは」とも思いましたが、多くの相続人たちと揉めることなく遺産分割協議をまとめるためには、この方法しかありませんでした。

遺産分割協議書 に相続人全員の署名・捺印が揃い、叔母の預金が解約できたのは、相続発生から1年半あまり後のこと。その間、取りまとめ役としての私のストレスは、筆舌に尽くしがたいものがありました。

取り返しはつきませんが「叔母に『遺言書』をもらったあの日、この知識があれば、書式の不備の心配がない公正証書遺言の作成をお願いしたのに」と、つくづく思います。

担当した専門家が解説!
「ここがポイント」

配偶者も子供もおらず、両親にも先立たれた被相続人の場合、その方の兄弟姉妹が相続人となります。また、兄弟姉妹も亡くなっている場合は、その子(甥・姪)が代襲相続人となります。

兄弟姉妹の人数が多く、他界している人も多い場合、相続人の数が非常に多くなってしまうことがあります。遺産分割協議は相続人全員の同意が必要で、1人でも反対する人がいると協議は成立しません。相続人の数が多くなると、相続人同士が疎遠であることも多く、遺産分割協議をスムーズに成立させることが難しくなってしまいます。

こうした状況が予見される場合には、相続人を指定した遺言書の作成をおすすめします。一定の範囲の相続人(配偶者、子、直系尊属)には、「遺留分」という最低限の遺産取得分が認められていますが、兄弟姉妹やその代襲相続人の甥・姪には遺留分が認められていないため、相続人を指定しても遺留分の侵害が問題になることもありません。

また、介護に尽くした特定の相続人に 寄与分 が認められるケースは非常に少ないため、このような相続人に報いてあげたい場合についても、遺言書の作成をおすすめします。 本事例において、寛子さんが「遺言書」をもらった時、叔母様は寝たきりに近い状態で、自宅で訪問看護・訪問介護を受けていましたが、判断能力はしっかりされていたそうです。このような場合、出張費用はかかりますが、公証人に自宅まで出張してもらい、公正証書遺言を作成することが可能です。遺言書の有効性が問題なることがない 公正証書遺言 を作成しておけば、寛子さんは相続人18人による大変な遺産分割協議のまとめ役として多大なストレスを抱えることもなく、叔母様の願い通りに預金全額をスムーズに相続できたはずです。

解説者プロフィール

廣木 涼

司法書士事務所アベリア

司法書士

廣木 涼

大手司法書士法人で約5年の勤務、相続事業部のマネージャーを務め、独立。
不動産会社や保険会社など様々な業種と連携しながら、士業の枠に捉われず、多角的な視点から、遺言・家族信託等、生前の相続対策に関する総合的なコンサルティングサービスを提供しています。


この記事にまだコメントはありません

週間アクセスランキング