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「生命保険」の受取人が自分より先に死んだら? 相続対策で知った保険のこと

2023/6/30

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この相続事例の体験者

この相続事例の体験者

伊藤 武史(仮名)

埼玉県在住。66歳。子供がいないことから、夫婦お互いのことを考えた遺言を作成。その過程で生命保険の受取人が先に死んだ場合どうなるのか?という疑問が浮かぶ。

子のいない私たち夫婦が互いのために作成した遺言内容

私たち夫婦には子供がいません。私も妻も両親は既に他界しており、私が妻より先に死んだ場合、妻と私の妹が相続人となります。一方、妻が私より先に亡くなった場合、私と妻の弟が相続人となります。「義理のきょうだいと遺産分割の話をするのは嫌だし、お互いの老後のためにできるだけ多くの財産を遺してあげたいから」という理由で、私と妻はそれぞれ 遺言 を作成することにしました。

遺言書 の内容は夫婦共通で、「遺言者は全財産を配偶者に相続させる」、そして「遺言者の死亡前または遺言者と同時に配偶者が死亡した場合は、全財産を姪の美幸(私の妹のひとり娘)に遺贈する」という内容です。美幸は私たちの家の近所に住んでいて、出かける時に車を出してくれたり、スマホの使い方を教えてくれたり、本当に頼りになる姪っ子です。子供がいない私たちは、美幸を実の子のように可愛く想っていて、私たちが死んだ場合はこの子に遺産を遺したいと思ったのです。

妻を受取人とする生命保険。妻に先立たれた場合、受取人を姪にしたい

遺言書は 公正証書遺言 としたので、作成は司法書士にサポートしてもらうことにしましたが、打ち合わせの席で、私は妻を受取人に指定している生命保険の存在を思い出しました。「もし、妻に先立たれて受取人名義をそのままにしていた場合、誰が受取人になるんだろう?」と思い、司法書士に質問してみると、この保険会社の場合、妻の死後、私が受取人変更の手続きをしない限り、妻の 法定相続人 である義弟が受取人になるとのことでした。そばで聞いていた妻が「それだけは嫌!」と強い口調で言いました。妻は義母の相続の際に義弟と揉めた経緯があり、それ以来、2人は口も利かない間柄になっていたからです。

「私が先に死んだら、受取人を美幸ちゃんに変更すればいいじゃない」と妻は言いますが、実際にその時になって、私が心身ともに元気で、忘れずに変更手続きをできる保証はありません。「何かいい知恵はないですか?」私は司法書士に聞きました。

まさか!遺言書で未来の保険金受取人まで変更できるとは

「平成22年4月1日以降に加入された生命保険であれば、受取人は遺言で変更することができますよ」と司法書士。懸案の保険は、私が定年を機に保険の見直しをした際、新しく入った500万円の終身保険で、保険契約の日付は平成29年9月5日となっており、私たち夫婦は安堵すると共に、私の遺言書には「遺言者の死亡前または遺言者と同時に配偶者が死亡した場合、保険金の受取人を姪の美幸に変更する」という内容が盛り込まれることになりました。細かい点もちゃんと抑えられ、安心できる遺言書に仕上がったと夫婦で喜んでいます。

担当した専門家が解説!
「ここがポイント」

平成22年4月1日以降に契約された生命保険の保険金受取人は、遺言によって変更することが可能です(保険法第44条第1項)。本事例のご主人の遺言書のケースでは、生命保険会社名、保険契約の日付、保険証券番号、保険金額等を明記し、対象となる保険契約を特定できる状態に記述した上で、「遺言者の死亡前または遺言者と同時に妻●●が死亡した場合、保険金の受取人を姪の○○に変更する」という内容を盛り込みました。ただし、保険法施行前の平成22年4月1日以前に締結した保険契約には、上記保険法の規定が適用されず、遺言による保険金受取人の変更については、各保険会社の対応が異なりますので個別に確認が必要です。

なお、遺言書を作成しただけでは、遺言者の死後、変更後の保険金受取人に保険金が支払われることはありません。保険法第44条第2項では、「遺言による保険金受取人の変更は、その遺言が効力を生じた後、保険契約者の相続人が保険金受取人の変更の旨を保険者に通知しなければ、これをもって保険者に主張することができない」とされています。つまり、保険会社への受取人変更の通知がなされない場合、保険会社は変更前の保険金受取人(亡くなっている場合、多くの保険会社ではその法定相続人)に保険金を支払いますので、受取人変更の旨は、保険会社へのすみやかな通知をおこなう必要があります。

なお、通知は遺言執行者(本事例においては司法書士を指定)がおこなっても問題ありません。なぜなら、遺言執行者は、遺言の内容を実現するための全ての権限を有するからです。

解説者プロフィール

廣木 涼

司法書士事務所アベリア

司法書士

廣木 涼

大手司法書士法人で約5年の勤務、相続事業部のマネージャーを務め、独立。 不動産会社や保険会社など様々な業種と連携しながら、士業の枠に捉われず、多角的な視点から、遺言・家族信託等、生前の相続対策に関する総合的なコンサルティングサービスを提供しています。


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