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他人事じゃない!認知症対策としての「任意後見制度」と「家族信託」を比較

2023/9/29

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この相続事例の体験者

この相続事例の体験者

伊東 志津香(仮名)

東京都在住。52歳。
母から相続における認知症対策の相談をされ一緒に調べ始めるが、「任意後見制度」「家族信託」という2つの対策があることを知る。

母の友人の認知症発症をきっかけに認知症対策をすることに

半年ほど前、実家に顔を出すと、80歳の母に「ちょっと聞いて欲しい話がある」と言われました。

「私の友達の伸江さん。しばらく前から認知症と診断されていて、最近は徘徊もするようになったみたいで、来月から老人ホームに入ることになったの。老人ホームに入る時にまとまった費用がかかるらしいんだけど、娘さんが伸江さんの口座から引き出そうとしたら、本人の確認が取れないからって銀行に断られたらしく、全額娘さんが支払うことになったんだって」

「私も他人事じゃないし、あんたに迷惑かけないように準備しておきたくて。こういうのを見つけたから一緒にいかない?」と、母はデパートで開催される「知っておきたい認知症対策の手法」という司法書士によるセミナーのチラシを私に手渡しながら言いました。ちょうどその日の予定は空いていたので、母と一緒にセミナーに参加することにしました。

判断能力が衰えることでのリスクを知り、改めて不安に

当日、セミナーでは、判断能力が衰えることによって財産が凍結されるリスクの説明がありました。母の友人の娘さんも経験した「預金が引き出せなくなる」という話のほか、「不動産が売却できなくなる」といった話も出ました。

賃貸経営をしている人の判断能力が衰えると、修繕のための費用を銀行から借り入れるのが難しくなるといったリスクもあるそうです。私の母も父から相続した賃貸アパートを1棟所有しているため、改めて不安になりました。セミナーではこのようなリスクに備えて、「任意後見制度」「家族信託」という2つの対策手法が説明されました。

初めて知った「任意後見制度」と「家族信託」のこと

セミナーのあとに個別相談会が開催されていたので、母と私は、「任意後見制度と家族信託、うちの場合、どちらを選択するべきか?」司法書士に相談してみました。

「任意後見制度は、元気なうちに信頼できる人との間に契約を結んでおき、ご本人の判断能力が衰えた後、契約に基づく財産管理、身上監護の両面での支援をおこなうという制度です。支援をおこなう任意後見人はご家族でもなれますが、その支援状況をチェックする任意後見監督人を裁判所に選任してもらう必要があります。このとき、任意後見監督人への報酬が発生します」

「一方、家族信託は、信頼できる家族に財産を託し、その管理を委ねる財産管理手法です。託された人は、託した人のために財産を管理します。医療、介護に必要な契約といった身上監護の機能はありませんが、今回の場合、信頼できる娘さんがお近くにいらっしゃるので、問題ないでしょう」と司法書士は詳しく答えてくれました。

その後、司法書士と何度か打ち合わせを重ね、改めて家族信託と任意後見制度を比較検討した結果、費用や手間のことを踏まえ家族信託を選択することに決め、現在手続きを進めているところです。

担当した専門家が解説!
「ここがポイント」

認知症などで判断能力が衰えた状態になると、財産の管理や処分を自分でおこなうことができなくなってしまいます。このようなリスクを回避するために、元気なうちに備えておくための手段として、「任意後見制度」と「家族信託」を挙げることができます。

任意後見制度では、本人と任意後見受任者(家族のほか、弁護士、司法書士等の専門家など)との間に任意後見契約を締結しておきます。本人の判断能力が低下した場合、任意後見受任者は家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申立てます。任意後見監督人が選任されたら、任意後見契約が発効し、任意後見受任者は任意後見監督人となって、財産管理、身上監護の両面から、任意後見契約に基づく支援を開始します。なお、任意後見人は、任意後見監督人に対し、支援の状況等を定期的に報告し、チェックを受ける義務を負います。家族が任意後見人となる場合は無報酬のことが多いですが、任意後見監督人には報酬の支払いが必要です。

家族信託では、本人(委託者)と信頼できる家族(受託者)との間に信託契約を締結し、本人の財産(信託財産)を託し、その管理・処分権限を与えます。信託財産から生じる利益を受け取る人を「受益者」といいますが、受託者は受益者のために財産を管理します。多くの場合、親を委託者兼受益者、子を受託者として信託契約を締結するのが一般的です。

家族信託には、柔軟な財産管理が可能というメリットがありますが、医療や介護にかかる契約ごとなど身上監護の機能はありません。しかし、親の判断能力が低下していても、子がしっかりとサポートしている限り、それが現実的に問題となる局面は少ないでしょう。ただし、頼れる家族がいない方の場合、判断能力低下後は、第三者による身上監護の支援が必要です。弁護士、司法書士、社会福祉士等との間に任意後見契約を結んでおくことをおすすめします。

解説者プロフィール

廣木 涼

司法書士事務所アベリア

司法書士

廣木 涼

大手司法書士法人で約5年の勤務、相続事業部のマネージャーを務め、独立。
不動産会社や保険会社など様々な業種と連携しながら、士業の枠に捉われず、多角的な視点から、遺言・家族信託等、生前の相続対策に関する総合的なコンサルティングサービスを提供しています。


コメント⾮表⽰

コメント1件

aki8

勉強になりました。親子元気なうちから出来ることをしっかりと話し合って決めていきたいです。

2023-11-07 15:39:12

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