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相続した賃貸アパート入居者に伝えておくべきだった!「口座凍結」でクレーム

2023/6/6

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この相続事例の体験者

この相続事例の体験者

佐藤 由美子(仮名)

神奈川県在住。50歳。
母から相続した賃貸アパート、入居者から「家賃が振り込めない」とのクレームを受けたことで、母の銀行口座が凍結されていることを知る。

家賃が振り込めない?賃貸アパートの入居者からの指摘に驚く

母が79歳で亡くなったのは昨年の2月。心不全で突然旅立ってしまいました。母は自宅の隣に1棟4室の小さな賃貸アパートを所有し、管理会社を使わず自主管理をしていました。幸い満室で、家賃は毎月末に母の銀行口座に振り込まれ、滞納等のトラブルは過去に一度もなかったそうです。母の葬儀の後、もう1人の相続人である妹と話し合い、 遺産分割協議書 は作らなかったものの、実家とこの賃貸アパートは、私が相続することで合意しました。

母が亡くなった翌月のある日曜日、遺品の片づけで実家に行くと、「ちょっと、由美子ちゃん、家賃が振り込めないのよ」「先月末、いつもの口座に家賃を振込もうとしてるんだけど、できないのよ。他のみんなも困ってるよ」と、アパート入居者の松原さんに声をかけられました。松原さんはこのアパートに1番長く住んでくれている方で、私も面識があり、母が亡くなったことも知っています。

「これは口座凍結されている!?」 と困惑状態に

松原さんには「ちょっと確認してみますね」と言ってみたものの、私には理由がわからず、妹に電話をしてみました。「このまえテレビで見たんだけど、口座凍結っていうやつかも」「葬儀の後、私たちは『亡くなった母の口座残高を知りたい』って銀行に電話したでしょ?」「あの時、銀行が母さんの口座を凍結したんじゃない?」と妹。そうかもしれないけど口座凍結って出金だけじゃなく入金もできなくなるの?もしそうだったとして、家賃の受け取りはどうすればいいんだろう?と疑問に思いました。

また、そもそも遺産分割協議書の作成や 相続登記 などの相続手続きが終わっていないのに、私たちが家賃を受け取っていいのか?など新たな疑問も浮かび、私たちは困ってしまいました。そこでふと、1年ほど前に参加した相続セミナーで講師を務めていた司法書士を思い出し、電話をしてみました。

専門家のアドバイスもあり円満に解決。相続手続きも無事終了

すると、やはり事象の要因は口座凍結で、口座凍結されると口座からの出金だけでなく、入金もできなくなってしまうとのこと。更に「賃貸人の地位は相続開始と同時に相続人(私と妹)に承継されるので、家賃は受け取ることができる」、そして「遺産分割協議書がまだ作られていなくとも、私がアパートを相続することに相続人(私と妹)が合意しているのであれば、家賃の振込先を私の口座へ変更する対処で問題ない」とアドバイスされました。もちろん、妹も異論ありません。

次の週末、松原さんが音頭を取ってくださり、私は賃貸アパートの他の入居者の皆さんと面談をしました。今回の不手際についてお詫びし、母が亡くなったこと、長女の私が新しい大家になること、家賃の振込口座が変わることなどをお伝えしたところ、皆さん快く了承してくださいました。

遺産分割協議書の作成や相続登記は司法書士にお願いし、相続手続きもスムーズに完了しました。私は実家から離れた場所に住んでいて、平日は仕事もあるので、今後は不動産管理会社に賃貸アパートの管理をお願いする方向で検討しています。

担当した専門家が解説!
「ここがポイント」

預金口座の名義人が死亡した事実を金融機関が把握すると、その預金口座は、遺産分割が完了し、金融機関所定の手続きをおこなうまでの間、預金の引き出しや口座引き落としなどの出金ができなくなるとともに、入金もできなくなってしまいます。

本事例のように、不動産管理会社を介さず、大家が自主管理をされているような場合、大家が亡くなり家賃の受取り口座が凍結してしまうと、入居者からの家賃の振り込みを受けられなくなってしまいます。今回は入居者の数が少なく、相続人と顔見知りで協力的な入居者もいたため丸く収まりましたが、本来は、大家が亡くなったこと、今までの口座には家賃の振り込みができなくなることを、入居者の皆さんにただちにお伝えしなければなりません。

なお、賃貸人の地位は、賃借人の同意を得ることなく、相続開始と同時に相続人に承継されます。今回は、相続人同士の仲が良く、誰が賃貸アパートを相続するかについて合意形成がなされていましたので問題になりませんでしたが、そうでない場合は遺産分割協議がまとまるまでの間に受け取った家賃の管理については注意が必要です。便宜的に相続人代表者の預金口座に振り込んでもらうことも多く、なかには相続人代表者が他の相続人に断りなく、勝手に使い込んでしまい、トラブルに発展してしまった事例もあります。

解説者プロフィール

廣木 涼

司法書士事務所アベリア

司法書士

廣木 涼

大手司法書士法人で約5年の勤務、相続事業部のマネージャーを務め、独立。 不動産会社や保険会社など様々な業種と連携しながら、士業の枠に捉われず、多角的な視点から、遺言・家族信託等、生前の相続対策に関する総合的なコンサルティングサービスを提供しています。


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