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何の意味もなかった!不利な内容だと思い込み遺言書の内容を確認する「検認」手続きを拒否!

2023/7/31

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この相続事例の体験者

この相続事例の体験者

大崎 広子(仮名)

東京都在住。49歳。
母の死で遺言書を預かる仲の悪い妹から、検認の手続きを促されるが、遺言に書かれている内容が自分に不利なものだと思い込み、手続きを拒否。

「妹に都合の良い内容では?」と思い込み遺言書の検認を妨害

昨年、母が亡くなりました。相続人は私と妹の2人です。葬儀が終わった後、妹から「お母さんの 遺言書 を預かっている」と言われました。「封をしているから、内容は私も知らない。家庭裁判所で検認という手続きをして、開封する。 検認 の手続きは私がやるけれど、添付書類として相続人全員の戸籍謄本が必要らしいので、戸籍謄本を取ってきて欲しい」。

私は実家から少し離れた東京の江東区に嫁ぎましたが、妹は30代で離婚を経験した後、実家に戻り、母と2人で暮らしていました。ここ数年は、たまに実家に顔を出すと、もともと仲の良くなかった妹から「お母さんの介護、私ひとりでやってるから大変」と嫌味を言われ、それが嫌で、母の様子が気になりながらも、すっかり実家から足が遠のいてしまっていました。

そんな経緯もあり、母の遺言書の話を聞いて、「どうせ、妹の都合よく母に書かせたんだろう」と思っていました。妹への嫌悪感と、遺産の配分を確認するのが怖いのもあり「検認をしなければ事が進まないのなら、いっそ戸籍謄本を妹に提出せず、検認申立て手続きを妨害してやろう」と思い、私は戸籍謄本を取得せずにいました。

検認の意味がわかっていなかった!弁護士に説得され手続きを進めることに

妹からは何度も催促がありましたが、生返事で対応していたところ、ある日、「弁護士に相談して、しかるべき対応を取るからね!」と激しい口調で言われました。私は怖くなって、近所の法律事務所に相談に行きました。

私の話を聞いた弁護士は、「検認申立て手続きを妨害するなんて、ナンセンスですよ」と言いました。「検認は、相続人全員に遺言書の存在とその内容を知らせるとともに、検認の日以降の遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです」

「検認により明らかになった遺言書の内容が、ご自身の遺留分を侵害する内容だった場合は、 遺留分侵害額請求 などの対応を考えれば良いのです。まずは検認をして、遺言書の内容を把握しないと始まりませんよ」。

それを聞いて、ようやく私は遺言書と向き合う覚悟が固まり、妹に戸籍謄本を郵送しました。

公平に遺された母の遺志。疑心暗鬼だった自分を反省

家庭裁判所から検認期日の案内があり、私も裁判所に出向くことにしました。裁判官により開封された遺言書の内容は、「実家は妹に相続させるけれど、私には預金を多めに相続させる」というバランスのとれた内容でした。付言事項には妹に対してだけでなく、私に対しても母の温かい言葉がつづられていました。「もっともらえるかと思ったけど、まあこんなもんか」と苦笑いする妹を尻目に、私は疑心暗鬼になって検認申立て手続きの妨害を考えてしまった自分を恥じ、大いに反省しました。検認を終え、母の相続手続きは、遺言に基づいて無事に終了しました。

担当した専門家が解説!
「ここがポイント」

自筆証書遺言 (法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を活用していないもの)が見つかった場合、すみやかに遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に検認の申立てをおこなう必要があります。

検認は、遺言書の存在を全ての相続人・ 受遺者 に知らしめ、その内容や形状等を明らかにすることで、遺言書が隠匿・変造されることを防ぐための手続きで、つまり証拠を保全する手続きです(遺言書の有効性を判断する手続きではありません)。なお、検認を経ていない自筆証書遺言は、 相続登記 や預金・株式の名義変更手続き等において使用することができません。

検認の申立てが受理されると、家庭裁判所から、関係相続人等(全ての相続人・受遺者)宛に遺言書の存在と検認期日が通知されます。検認期日当日は、関係相続人等が家庭裁判所に集まります。出席できない関係相続人等がいても、検認はおこなわれ、欠席した関係相続人等には、後日、検認の終了通知が郵送されます。

封がされた遺言書は、集まった関係相続人等の面前で裁判官が開封し、その状態や日付、署名など遺言書の内容を明確にします。ちなみに封がされた遺言書を家庭裁判所以外で勝手に開封した場合には、5万円以下の過料に処される可能性があり、注意が必要です。開封の結果、自身の 遺留分 が侵害されていることが判明した場合は、改めて 遺留分侵害額請求 などの対応をとればよく、本事例のように検認申立て手続きの妨害を企図することに何の意味もありません。

なお、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を活用し、法務局の遺言書保管所に保管した自筆証書遺言は、隠匿・変造等が起こり得ないため、検認は不要です。また、原本を公証役場で保管する 公正証書遺言 も同じく隠匿・変造等のリスクは無いため検認は不要です。

解説者プロフィール

木下 正一郎

きのした法律事務所

弁護士

木下 正一郎

1990年、早稲田大学卒業後、一般企業に勤務。2001年、弁護士登録。2004年10月、きのした法律事務所開業。医療問題、医事事件に強く、相続問題、成年後見、不動産問題等への対応にも定評。東武練馬駅に近い事務所には、近隣住民からの相談も多く、気軽に相談できる「地元の弁護士事務所」としてリーガルサービスの提供に努めています。


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