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自力では関係修復不能!? 良かれと一方的に進めた「相続手続き」で他の相続人と仲違い

2023/5/19

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この相続事例の体験者

この相続事例の体験者

常盤 光子(仮名)

神奈川県在住。71歳。
夫が亡くなり相続が発生。夫の前妻の娘2人と遺産分割することになったが、遺産分割協議の始め方に失敗し揉めることに。

夫の死による遺産分割協議を機に、仲のよかった前妻の娘たちと大きな亀裂が

私はいわゆる後妻でした。夫は画家で、若い頃にデザイナーをしていた私は、夫の画集の装丁を担当したことがきっかけで出会ったのです。当時は私も夫も別の方と結婚していたのですが、数年後に出版社主催のパーティで再会したときには互いに独り身。そこから仲良くなり2年後には再婚しました。とはいえ、その頃の夫は前妻の娘2人と一緒に住んでおり、私は実家で母と実娘と暮らすという別居婚スタイル。そして数年後、夫の娘たちが嫁いだのを機に、私と娘は夫の家に移り住んだのです。

少し前まで前妻の娘2人とは、当たり障りのない関係でした。しかし夫が病気になってからは頻繁にメールのやり取りをするだけでなく、よく「光子さんも大変だろうから」と夫の世話をする私に手土産を持って様子を見に来てくれて、少し仲が深まったように感じていました。余命3ヶ月と言われた夫が2年以上生きたことに対しても「光子さんのおかげ」と言ってくれました。

そして猛暑といわれた夏のある日、夫が85歳で永眠。文字通り、眠るようにこの世を去ったのです。私は葬儀直後こそ力が抜けてぼんやりとしていましたが、1ヶ月後には相続手続きについて考えられるように。四十九日の法要を終えると、さっそく母の相続でお世話になった司法書士に連絡を取り、手続きを開始しました。

夫の遺産は自宅マンションと数百万の預貯金でした。遺言書がなかったので預貯金は前妻の娘たちと法定相続通りに分けようと思いますが、自宅マンションは私1人で相続したいところ。実娘夫婦から「一緒に住もう」と誘われているので、このまま住むわけではありませんが、私もいまは年金しか収入がないので、できれば自宅マンションを売却して今後の生活資金にしたいと思っていたのです。

私はその気持ちを司法書士に伝えて遺産分割協議書を作ってもらい、前妻の娘2人に電話で「今度、司法書士から遺産分割協議書を送ってもらうからハンコを押してね」とお願いしました。しかしこの対応が間違いだったようで、電話口で2人は、激しい怒りを露わにしたのです。

こんなはずじゃ…気持ちがすれ違って話し合えない

「なぜもう相続手続きを進めているの? 葬儀のときに急いでやらないでと言ったよね。しかもこんな一方的な形で進めるなんて!」

娘たちは私を強く責め立てました。四十九日が終わるのを待ったので、私としては十分時間をかけたつもりだったのですが、彼女たちにとってはそうではなかったようです。また自宅マンションは私にとって深い思い入れがある場所ではありませんが、彼女たちにとっては実家であり、ここから嫁いで行った場所。私に渡すのが面白くないという気持ちもあったのかもしれません。

私は何とか説得を試みたのですが、話し合うこともできず「もうマンションを相続できなくても良い」と投げやりな気持ちになりました。

とはいえ、このままにするわけにもいかないので、司法書士に相談すると「一度、皆さんで集まって家族会議しませんか」と提案されました。第三者を間に挟んで、互いに言いたいことを言えば解決につながるかも知れないと言われ、私はその提案に乗ることにしました。

第三者の存在で、ようやく彼女たちの気持ちを理解できた

数週間後、私と前妻の娘たちは司法書士の事務所に集まりました。そこで分かったのは彼女たちの本音。私はてっきり、後妻である私に自分たちの実家を取られたくないのだと思っていたのですが、そうではなかったのです。

「あの家に光子さんが住み続けることに、文句なんてない。でもいきなり電話で『遺産分割協議書にハンコを押して』というのは筋が違うでしょう。頼み事をするには言い方がある」

「光子さんは私たちの気持ちを全然分かろうとしない。私たちは別にマンションが欲しいわけではないの。心の準備をする時間が欲しいと言っているの」

そこで初めて私はハッとしました。これまでも2人はその気持ちを伝えてくれていたのでしょう。けれどきっと「反対された」「怒っている」という部分にばかり気持ちがいってしまい、言葉をちゃんと理解していなかったのです。司法書士という第三者を挟むことで、言葉を冷静に受け止めることができ、ようやく彼女たちの思いが私に伝わりました。

私は彼女たちの思いと自分の考えのズレに気付き、改めて遺産分割協議書の内容を検討してほしいと前妻の娘たちにお願いしました。司法書士を再び通して話し合い、数ヶ月後、無事に相続手続きを完了。マンションを私1人で相続する代わりに、代償金を2人に支払う形で落ち着きました。そうしてようやく、私はほっと胸を撫で下ろしたのです。

担当した専門家が解説!
「ここがポイント」

相続人が多くなったり、相続するものが多かったりすると、どのように分配するかで揉めがちです。当事者だけではらちが開かず、それぞれの配偶者も巻き込んだら一層泥沼化……なんて話もあります。そんなときにおすすめなのが、具体的な相続の話を相手に出す前に専門家に相談することです。

今回のケースでは司法書士である私たちが主催として家族会議を開催。立場的な公平性を保つために、冒頭で「司法書士は誰かの肩を持つことができない、中立の立場です。話が混み合ってきたら、私が論点の整理をします」と告げました。本事例における私たちの依頼主は「光子さん」ですが、実際に前妻の娘さんたちの話を聞くと、彼女たちの話には筋が通っており、光子さんとは心情のズレはありますが、決して無茶な財産的要求をしていないことがわかりました。このように公平的な立場で話を聞くことで整理できることもあるので、直接話し合いを始める前に、ぜひ専門家に相談してください。

なお、司法書士は依頼人の代理人として他の相続人と交渉することができません。一方、弁護士を代理人とした場合は相続人同士で直接交渉ができなくなります。専門家によって「依頼したその後」が違いますので、よく説明を聞くようにしましょう。

解説者プロフィール

司法書士法人松野下事務所/
一般社団法人エム・クリエイト

松野下グループは、超高齢社会の様々な不安、困り事を登記部門として「司法書士」が、資産コンサルティング部門としてシニア層に特化した「ファイナンシャルプランナー」が、各専門家と連携して、より高度で充実したコンサルティングをおこなっております。


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