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他の相続人に相続の放棄の協力を求めるも、同意を得られず弁護士沙汰に

2023/2/27

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この相続事例の体験者

この相続事例の体験者

萩本 良江(仮名)

埼玉県在住。75歳。
相続手続きをしようとしたら、自分以外にも相続人が複数人いることが判明。自分だけが相続できるよう、他の相続人に相続の放棄をお願いするもスムーズに事が進まず大ごとに。

相続人は自分だけではなかった!

亡くなった夫と私には、子どもがいませんでした。夫の兄弟もすでに鬼籍。 遺言書 はありませんでしたが、遺産である自宅と預貯金を相続するのは当然妻である私だけだと思っていました。

しかし、相続手続きを進める中で、夫の兄弟の子どもたち(甥・姪)も 相続人 であることがわかりました。その中には、会ったことがない人もいるので正直、戸惑いました。特に彼らと自宅の権利を分け合う場合、現在自宅には私が住んでいることもあり「今後どうなるのかしら」と大きな不安があったのです。

また私自身の余生を考えると、できるだけ多くの財産を手元に置いておきたいのが本音としてありました。そこで、相続手続きを依頼している司法書士に相談しました。

すると「相続人全員で 遺産分割協議 をして、萩本さん以外の相続人は相続を放棄するという合意を得られれば、1人で相続できますよ」とアドバイスをいただき、彼らに相続の放棄の協力を求めることにしたのです。

他の相続人に相続の放棄の協力を求めるも、弁護士沙汰に

さっそく司法書士に、私以外の相続人が相続の放棄をする内容で、遺産分割協議書の原案を作成いただきました。この原案どおりに話がまとまり、全員から記載内容に同意した証として署名・押印してもらえれば、私1人で夫の財産を相続できるとのこと。

私から遺産分割協議書の原案を送り、併せて「内容に同意の上、印鑑証明書と一緒に返送してほしい」と伝えると、ほとんどの方はすぐに対応してくれました。しかし甥の1人からはいつまで経っても音沙汰がありません。司法書士からも状況確認の連絡をしていただくと、彼は「会ったことがない人に協力したくない」と本音を漏らしたようです。そこで、もともと交流のあった彼の母親に協力をお願いした結果、何とか遺産分割協議書原案の内容には同意してもらえましたが、返送書類の中に印鑑証明書が同封されていませんでした。印鑑証明書の送付をお願いするもなかなか対応してもらえなく膠着状態に。

このままではらちがあかないので、仕方なく司法書士が紹介してくださった弁護士に介入してもらうことを決断。すべての書類が集まったのは、最初に相続の放棄の協力依頼をしてから7ヶ月後のことでした。

遺言書さえあれば、苦労せずに相続できた

結果的には相続は私が望む形で決着しました。でも、こんなに揉めるとは思わず、精神的に本当に疲れました。

同時に遺言書の大切さを実感しました。なぜなら夫が「全ての財産は妻に相続させる」と記した遺言書さえ作ってくれていれば、そもそも今回のような苦労はしなくて済んだのです。

なので私は相続がひと段落したあと、再び司法書士の元を訪ねて遺言書を作りました。私には子どもがいませんし、誰に何を相続させたいのか、しっかりと意思表示をすることが残された人のためにも大事ですからね。

担当した専門家が解説!
「ここがポイント」

今回のように遺言書が無く、他にも相続人がいる中で自身だけを相続人としたい場合は、遺産分割協議で全員の同意が得られれば、実現できる可能性があります。しかし相手との関係が希薄であったり、感情的なもつれ、利害の不一致などがあると協議がまとまらないケースもあります。

また、相続の放棄を相手に強制することはできないので、協議がまとまらない場合には、裁判所で調停や審判になる可能性もあります。

こうした困った事態にならないために用意しておきたいのが遺言書です。子どもなど直系の血族がおらず、兄弟や甥姪が相続人になる場合、遺言書があれば配偶者に100%相続させることが可能になります。

本件のように配偶者にだけ遺産を遺すつもりの場合は、配偶者があとで他の相続人と遺産分割協議で苦労しないためにも、遺言書はぜひ作っておきましょう。

解説者プロフィール

髙橋健一

司法書士ケン総合事務所

代表司法書士

髙橋健一

1974年生まれ。2001年司法書士試験合格、2003年司法書士登録、司法書士法人の共同経営を経て、2012年司法書士ケン総合事務所を開設。各士業(弁護士や税理士等)との豊富なネットワークを活かし、お客様一人一人にあった質の高いサービスを提供している。 近年、遺言書作成や成年後見、民事信託といった生前対策分野のご相談が増えてきたことに伴い、更にサービスの向上を図るべく、また社会問題となっている超高齢化社会への貢献活動の一環として一般社団法人日本生前対策支援協会を設立。


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