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遺言書の効力は絶対ではなかった!遺された人たちだけでの円満合意

2023/7/31

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この相続事例の体験者

この相続事例の体験者

佐藤 隆二(仮名)

埼玉県在住。50歳。
父の死で遺言書は遺されたものの、その内容は将来のトラブルになりかねないものだったことから、相続人同士で話合い遺言書に書かれた内容とは違う形で分け合うことに。

相続不動産を共有させる遺言内容に困惑

昨年の秋、末期がんで入院中の父を病室に見舞ったところ、「実は 遺言書 を書いてある。書斎の机の二番目の引き出しに入れてあるから、俺が死んだら確認して欲しい」と言われました。ほどなくして父は亡くなり、書斎の引き出しの中を探してみると、封のされていない茶封筒に入った遺言書らしきものが見つかりました。便せん一枚に父の筆跡で書かれており、末尾に作成日の日付の記載や署名・捺印もあります。

父の相続人は私と妹、弟の3人。相続財産は父の自宅とさいたま市にある土地、そして約1,500万円の預金です。なお、自宅は土地、建物とも父の名義ですが、私と家族が父と同居し、父の面倒を見ていました。また、さいたま市の土地には妹の夫名義の家が建っており、妹家族はそこで暮らしています。私と妹と弟の間では、父の相続が発生した際には、自宅の土地と家屋を私が、さいたま市の土地を妹が、預金を弟が相続するという内々の申し合わせがありました。しかし、父の遺言書には以下のように書かれていたのです。

「自宅の家屋は長男である私に相続させる。自宅の土地、さいたま市の土地、預金については私と妹のタカコ、弟のコウジに3分の1ずつ相続させる」。

早速、妹と弟を呼び、遺言書を見せたところ、2人とも困惑していました。「共有名義になると、そこに住む私はお兄ちゃんとコウジに地代を払わないといけないの?」と妹。「こんな共有持分をもらっても迷惑。俺たちの代は仲がいいから何とかなるかもしれないけど、子供たちの代になったら大変だぞ」と弟。

遺言書には必ず従わなければならないの!?

そもそもこの遺言書が法的に有効なのかどうかについても疑問があったので、私たち3人は弁護士に相談することにしました。「形式要件は整っていますので、法的には有効な 自筆証書遺言 といえます。しかし、皆さんがおっしゃる通り、この内容は将来のトラブルになりかねません」と弁護士。「先生、遺言書がある場合、必ずその通りに相続しないといけないのでしょうか?」と聞くと、「原則はそうですが、相続人全員の同意があれば、遺言と異なる内容での遺産分割も可能ですよ」との回答。私たちは、胸をなでおろしました。

父の遺言とは異なる内容で遺産分割を終える

その後、弁護士に依頼して、父の死亡時から出生時までの連続した戸籍謄本を取得し、私たち3人以外に父の相続人がいないことを確認。その上で、私たちは 遺産分割協議 をおこない、父の生前から内々に申し合わせていた内容で遺産分割をおこないました。

父は「何でもきょうだい平等に」という意識が強い人だったので、このような内容の遺言を作成したのだと思いますが、私たちは次の世代のことまで考え、3人で納得の上、異なる選択肢を選びました。天国の父もきっとわかってくれるだろうと思っています。

担当した専門家が解説!
「ここがポイント」

遺言書が遺されていた場合、原則として遺言書の内容に従い、遺産分割をおこなうことになります。しかし、遺言書の内容に従って遺産分割をおこなうと、かえって円満でスムーズな相続が阻害される場合もあり得ます。

このような場合、相続人、 受遺者 全員の同意があれば、遺言書と異なる内容で遺産分割をおこなうことが可能です。このとき、「全員の同意」という点が重要で、1人でも反対する人がいると、遺言書の内容に従った遺産分割をせざるを得なくなります。

本事例の場合、遺言書の内容が相続人全員にとって都合が悪く、かつ、相続人同士の関係が良好だったため、スムーズに事が運びました。しかし、遺言書によって「得をする」相続人・受遺者と「損をする」相続人・受遺者との間で利害が対立することも多く、遺言書の内容に従って遺産分割をおこなった結果、遺留分をめぐる争いなどのトラブルに発展することも珍しくありません。

遺言書を作成する場合は、相続人や受遺者を困惑させることのないよう、相続に精通した専門家のアドバイスを受けながら作成されることをおすすめします。

解説者プロフィール

木下 正一郎

きのした法律事務所

弁護士

木下 正一郎

1990年、早稲田大学卒業後、一般企業に勤務。2001年、弁護士登録。2004年10月、きのした法律事務所開業。医療問題、医事事件に強く、相続問題、成年後見、不動産問題等への対応にも定評。東武練馬駅に近い事務所には、近隣住民からの相談も多く、気軽に相談できる「地元の弁護士事務所」としてリーガルサービスの提供に努めています。


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