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再婚相手の連れ子へ相続!「養子縁組」か「遺言書で遺贈」かの2つの選択肢

2023/8/31

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この相続事例の体験者

この相続事例の体験者

佐藤 昭三(仮名)

神奈川県在住。76歳。
再婚した妻が亡くなり、妻の連れ子が自身の相続人になりえるのか不安に。専門家に相談すると、その手段として養子縁組か遺言書を作るかの2つの方法があることを知る。

先送りにした再婚相手の連れ子との養子縁組

私は41歳の時、前妻と離婚しました。前妻との間に子供はいませんでした。その数年後、現在の妻と再婚しました。妻も離婚経験者で、前夫との間には当時中学1年生の娘が1人いました。娘の美奈子は明るい性格で、難しい年頃であったにもかかわらず、私とすぐに打ち解けてくれ、私たちは実の親子のように仲良く暮らしてきました。

再婚の際、美奈子を私の養子にするかどうか、検討した経緯があります。しかし、美奈子は 養子縁組 によって姓が変わることに抵抗を感じていたようでした。裁判所の許可を得れば、姓を変えずに済む方法もあるようでしたが、手続きが複雑そうで許可のハードルも高いと聞いたので、「当面のところ養子縁組はせず、またいずれ」という話になりました。

その後、美奈子の高校、大学への進学のタイミングなどで、養子縁組の話が何度か持ち上がりましたが、その都度「またの機会に」と先送りとなり、美奈子が結婚を機に家を出た後は、養子縁組の話が取り沙汰されることはなくなっていました。

妻に先立たれて浮上した相続権の問題

再婚から約30年経った昨年、妻が心不全で亡くなってしまいました。まだ71歳でした。妻の相続人は私と美奈子の2人です。妻の遺産である預金数百万円の相続について美奈子と2人で話し合う中で、「この先、私が死んだら、美奈子は私の遺産を相続できないのではないか?」と不安になりました。養子縁組をしていないため、美奈子は私の法的な相続人にはならないのではと思ったからです。

妻は私より4歳年下だったので、「妻より私の方が先に死ぬだろう。私の遺産は妻に相続され、妻の死後、美奈子に相続されるはず」と勝手に思い込んでいました。しかし妻に先立たれた今、美奈子と養子縁組をしていないことが、今更ながらまずいことに思えてきたのです。私は、相続に詳しい司法書士に相談してみることにしました。

養子縁組か?遺言書作成か?2つの選択肢

司法書士によれば、実の親子のように暮らしてきた経緯があったとしても、養子縁組をしていない連れ子に相続権はなく、私の遺産は、私の兄2人(彼らが私より先に亡くなった場合は、その子供たち)に相続されるとのことでした。兄たちは私の故郷の山形で暮らしていますが、最近は疎遠にしています。私は彼らにではなく、あくまでも美奈子に遺産を相続してもらいたい旨を司法書士に伝えたところ、司法書士は対策案として、①「美奈子との養子縁組」、②「美奈子に全財産を 遺贈 する旨の遺言書の作成」という2つの選択肢を提示してくれました。

私は美奈子と相談の上、元々考えていた養子縁組をすることを選択し、手続きを済ませました。これにより、美奈子は法的に私の唯一の相続人ということになりました。

なお、養子縁組の場合、「美奈子の姓を私の姓『佐藤』に変える必要があるのでは?」という懸念がありました。美奈子は妻の前夫の姓「中野」を名乗っていましたが、結婚を機に配偶者の姓「大山」に姓を変えています。「養子は養親の氏を称するが、婚姻によって氏を改めた者については、この限りでない」という民法の規定があるそうで、養子縁組後も美奈子の姓は「大山」のままで良く、美奈子の配偶者や子供たちに影響を及ぼさずに済むという点も、養子縁組選択の大きな理由でした。

相続のことがきっかけにはなりましたが、養子とはいえ、これで法的には私の子になり、ほっとすると共に嬉しい気持ちです。

担当した専門家が解説!
「ここがポイント」

本事例には、二つポイントがあります。一つ目は、実の親子のようにどれだけ仲良く暮らしていたとしても、養子縁組をおこなわない限り、再婚相手の連れ子との間に法律上の親子関係が成立することはなく、連れ子に相続権はないということです。連れ子に遺産を承継したい場合、①「養子縁組により連れ子との間に法律上の親子関係を成立させる」、②「連れ子に財産を遺贈する旨の遺言書を作成する」のいずれかの手段を選択する必要があります。

二つ目は、養子縁組にあたっては、養子の姓は原則として養親の姓に変わるということです。養子が婚姻している場合、養子の配偶者の姓も養親の姓に変わります。なお、養子に子供がいる場合、養子の子供の姓は親の養親の姓に変わらないため、親子の姓が分かれてしまうこともあります。こうした改姓の必要性を知り、養子縁組を断念するケースも少なくありません。

例外的に「婚姻により姓が変わった人」は、その姓を称する限り、養親の姓に変える必要はありません。本事例においては、美奈子さんは婚姻を機に称することになった配偶者の姓「大山」を変更する必要がなく、配偶者、子供たちともども大山姓のままでい続けられるということが、養子縁組選択の大きな決め手となったようです。

解説者プロフィール

廣木 涼

司法書士事務所アベリア

司法書士

廣木 涼

大手司法書士法人で約5年の勤務、相続事業部のマネージャーを務め、独立。
不動産会社や保険会社など様々な業種と連携しながら、士業の枠に捉われず、多角的な視点から、遺言・家族信託等、生前の相続対策に関する総合的なコンサルティングサービスを提供しています。


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