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遺言は自筆したい!父の要望を踏まえ選んだ手段は「自筆証書遺言書保管制度」の活用

2023/8/31

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この相続事例の体験者

この相続事例の体験者

水上 今日子(仮名)

群馬県在住。50歳。
父の死後に相続で揉めることが不安で、父に遺言書の作成を依頼。快諾してもらえるも、不備による無効リスクのある自筆証書遺言による作成を望まれ、困惑することに。

公正証書遺言は作りたくない!作成を嫌がる父に困惑

母が亡くなった後、父はひとり暮らしになりました。2年前、父が自宅で転倒。骨折して入院したことをきっかけに、父を心配した私は実家に戻り、父と同居することにしました。私には妹が1人いますが、遠方に嫁いでいて、実家にはほとんど顔を出しません。

父の財産は、時価2,000万円程度の実家と預貯金1,200万円程度。生活費は年金受給額の範囲内でやり繰りできています。私は独身で持ち家がなく、父の死後は実家を相続したいと思っています。将来揉めることが不安だった私は、もう一人の相続人である妹とも話し合い「実家を私に、預貯金を妹に相続させる」という内容の遺言書を父に作成してもらうことにしました。

 父に話をしたところ、遺言書の作成については快諾してくれたものの、「 公正証書遺言 は費用がかかる。以前、本を買って勉強したから、 自筆証書遺言 を作成したい」とのこと。事前に相談していた司法書士から「遺言書の作成は不備なく作成できる公正証書遺言がおすすめですよ」と言われ、私も同感していただけに、父の主張には困惑してしまいました。

自筆証書遺言書保管制度を活用することに

このことを司法書士に相談したところ、自筆証書遺言にする場合は、法務局(遺言書保管所)による自筆証書遺言書保管制度の活用がおすすめで、理由としては紛失・改ざん等のリスクがなく、相続発生後、家庭裁判所での検認をおこなう必要もないからということでした。

ただし、法務局では日付や押印の有無といった外形面を除き、遺言書の内容自体をチェックしてくれるわけではないので、遺言書が無効になったり、 相続登記 に支障をきたしたりするリスクは残るとのこと。

こうしたリスクを極力抑えるために、私は司法書士に色々質問し、遺言書の書き方について、アドバイスをもらいました。父もこの制度の活用には納得してくれました。

法務局にて無事に申請手続きが完了

自筆証書遺言書保管制度 の活用には、保管申請手続きが必要で、遺言者本人が必ず法務局に出向く必要があるとのこと。さっそく法務局に電話し、事前予約を取った上で、私は法務省のWebサイトから保管申請書をダウンロードして、父に記載してもらいました。そして、遺言書、保管申請書、添付書類(父の本籍地記載の住民票、本人確認書類)をととのえ、父と私は指定された日時に法務局(遺言書保管所)の窓口に出向きました。

窓口で必要書類を提出し待つこと30分あまり。名前を呼ばれて窓口に行くと、無事に保管が完了した証である「保管証」ができあがっていました。公正証書遺言に比べて手間はかかりましたが、父の思いにも応えられ、一旦はひと安心した気分でいます。

担当した専門家が解説!
「ここがポイント」

2020年7月10日にスタートした自筆証書遺言書保管制度は、遺言者の自宅に保管されることが多かった自筆証書遺言を法務局で保管してくれるという制度です。

「紛失リスクがある」「改ざん、隠匿、廃棄リスクがある」「相続発生後、家庭裁判所での 検認 が必要」といった従来の自筆証書遺言のデメリットを解消するもので、自筆証書遺言の使い勝手を飛躍的に向上させる制度として注目されています。

制度の活用にあたっては、留意点が二つ。一つは、保管申請の手続きが必要であるということ。保管申請手続きをおこなうためには、電話またはWebにて事前予約を取得の上、必ず遺言者本人が法務局(遺言書保管所)の窓口に出向く必要があります。保管申請書を記載し、遺言者の本籍地記載の住民票(作成後3ヶ月以内)、本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)といった添付書類を添えて、書き上げた遺言書と一緒に窓口に提出します。遺言書1通につき3,900円の手数料も必要です。単純に遺言書だけを窓口に持っていけば良いというわけではありません。

もう一つは、遺言書が無効になったり、相続登記に支障をきたすリスクは残るということです。法務局は、「日付がない」「押印がない」といった外形的な不備は指摘してくれますが、遺言書の内容面の不備や改善点を指摘してくれることはありませんので、遺言書の内容や書き方によっては、無効となるリスクが生じます。そのため、自筆証書遺言書保管制度の活用に際しては、まず自筆証書遺言書の書き方について、専門家のアドバイスを受けた上で、作成されることをおすすめします。

解説者プロフィール

廣木 涼

司法書士事務所アベリア

司法書士

廣木 涼

大手司法書士法人で約5年の勤務、相続事業部のマネージャーを務め、独立。
不動産会社や保険会社など様々な業種と連携しながら、士業の枠に捉われず、多角的な視点から、遺言・家族信託等、生前の相続対策に関する総合的なコンサルティングサービスを提供しています。


コメント⾮表⽰

コメント1件

ソレイタ

遺言書はやはり公正証書の方が間違いなく安心です。

2023-12-04 10:36:10

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