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「行方不明」の相続人がいると遺産分割協議ができない!自力で行方を辿るも断念

2023/8/31

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この相続事例の体験者

この相続事例の体験者

高山 雅文(仮名)

東京都在住。55歳。
母が亡くなり遺産分割協議を進めようとするも、相続人の1人である甥が行方不明。自力で探すが見つからず、不在者財産管理人の選任申し立てをすることに。

相続人の1人である甥が行方不明!遺産分割協議の進め方がわからない

私の母は昨年2月に亡くなりました。相続人は私と妹、それに3年前に亡くなった姉のひとり息子である甥の3人です。甥は姉夫婦と同居していたのですが、姉の死後、些細なことで義兄(甥の父)と対立し、ある日突然家を出てしまいました。勤めていた会社も辞めてしまったそうで、その後行方がわかりません。母の死を伝えることもできませんでした。

甥の行方がわからない中、母の 遺産分割協議 をどう進めれば良いかわからず、私は職場の同僚から紹介された司法書士に相談しました。

自力で甥の行方を調べるも断念

司法書士の見解としては、行方不明の相続人がいる場合、 不在者財産管理人 の選任申立て、 失踪宣告 の申立ての2つの対応が考えられ、甥は行方不明になってから7年未満で、生存している可能性が高いため、家庭裁判所に不在者財産管理人の申立てをおこなうことになるとのこと。ただし、甥が本当に行方不明なのか、申立て前に確認する必要があるとのことでした。

私は司法書士のアドバイスに従い、甥の 戸籍の附票 を調べ、甥の現住所を特定しました。そこは千葉県内のアパートの一室でしたが、実際に足を運んでみると、部屋は空室のようでした。たまたま部屋から出てきた隣室の人に聞いてみると、「30歳前後の男性が住んでいたが、1年ほど前に引っ越していき、ほとんど会話を交わしたこともないので、どこへ引っ越したかわからない」とのこと。

恐らく甥は、引っ越した後、住民票上の住所を変更していないのでしょう。私は、これ以上所在を辿るのは無理だと断念し、司法書士に甥の不在者財産管理人選任申立て手続きの代行を依頼しました。

家庭裁判所が甥の勤務先を特定!甥と連絡が取ることができた

不在者財産管理人の申立てを終えてからしばらく経ったある日、司法書士から「家庭裁判所が甥御さんの勤務先を特定してくれましたよ」と連絡がありました。家庭裁判所は甥の雇用保険の被保険者の履歴を調査し、現在の勤務先を特定したとのこと。

私は、甥の勤め先に連絡をし、母の相続の件で直接本人と話がしたいため、繋いで欲しい旨をお伝えすると「従業員の個人情報に関するお問い合わせには、一切お答えできません」と言われてしまいました。その旨を司法書士に伝えると、家庭裁判所が甥の勤務先に連絡してくれ、その結果、甥と連絡を取ることができました。

「ご迷惑をお掛けしました」と恐縮する甥。「僕は何も相続しなくて結構です」という甥の意思を反映した 遺産分割協議書 を作成し、無事に遺産分割協議を終了することができました。

担当した専門家が解説!
「ここがポイント」

遺産分割協議を成立させるためには、相続人全員の同意が必要です。行方不明の相続人がいる場合、その人を除外して遺産分割協議をおこなうことはできません。ただし、行方不明の相続人が生存している可能性が高く、行方不明になってから7年未満である場合は、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申立て、不在者財産管理人を選任すれば、選任者が代わって産分割協議に参加し、相続手続きを進めることができます。なお、選任申立てに際しては、相続と利害関係のない親族等を候補者にするのが一般的ですが、適当な候補者がいない場合は、家庭裁判所が弁護士、司法書士等の専門家を選任することになります。

なお、「行方不明」と確定するハードルは高く、「連絡先がわからない」というだけでは不十分です。本事例での相談者さんは、甥御さんの住民票上の住所を調査し、実際に足を運び、甥御さんがそこにお住まいでなく、転居先の手掛かりもないことを確認の上、不在者財産管理人選任の申立てをおこないました。

さらに、申立てを受けた家庭裁判所では、甥御さんの所在の手がかりについて独自の調査をおこないました。この調査の結果、相談者さんは甥御さんと連絡を取ることができ、不在者財産管理人を選任することなく、遺産分割協議を無事に済ませることができました。

ちなみに、行方不明の相続人の生死が7年以上不明である場合、家庭裁判所に「失踪宣告」の申立てをおこなうことができます。失踪宣告を受けた行方不明の相続人は、法律上、「死亡したもの」とみなされ、相続人から除外されることになります。

こうした手続きには、かなりの手間と日数を要します。行方不明の推定相続人がいることがわかっている場合は、生前対策として、遺言書の作成をおすすめします。遺言書が存在する場合、原則、遺言書の内容に従って相続がおこなわれるため、相続人全員による遺産分割協議は不要となるからです。

解説者プロフィール

廣木 涼

司法書士事務所アベリア

司法書士

廣木 涼

大手司法書士法人で約5年の勤務、相続事業部のマネージャーを務め、独立。
不動産会社や保険会社など様々な業種と連携しながら、士業の枠に捉われず、多角的な視点から、遺言・家族信託等、生前の相続対策に関する総合的なコンサルティングサービスを提供しています。


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