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父に認知症の疑い、実家を売却できなくなる前に家族信託を活用しリスク回避

2023/2/27

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この相続事例の体験者

この相続事例の体験者

佐藤 洋子(仮名)

東京都在住。60歳。
父に認知症の疑いがあり進行する前に父の自宅を売却したいと考えたが、売却完了までに時間がかかる見込み。その間に認知症が進行し売却できなくなることを避けるため、家族信託を活用。結果無事に売却することができた。

父が介護施設に入居。空き家になった実家の売却に対する懸念

母の死後、ひとり暮らしをしていた父が実家で転倒。大腿骨を骨折し、入院したのは約3年前のことでした。私と弟は遠方で暮らしており、退院後、病院の勧めもあり父を介護施設に入れることになりました。

施設の入居費用は、父の預金の一部で十分賄えました。問題は、空き家となってしまった父名義の実家。売却を考えたのですが、父には軽い認知症の傾向がみられ、徐々に進行しつつあります。不動産会社に相談すると、境界確定の測量等の必要もあり、売却完了までに半年程度は見込んでおいて欲しいとのこと。そして、その間に父の認知症の症状が進み、判断能力を失ってしまった場合、売却できなくなる可能性があるとのことでした。

困惑してしまった私に、不動産会社の担当者は、 家族信託 という方法なら認知症が進行しても売却できなくなるリスクを回避できるかもしれない、とアドバイスをしてくれました。さっそく家族信託に詳しい司法書士の先生を紹介していただき、たずねることにしました。

父と私で家族信託の契約を締結

家族信託は、最近、認知症対策の手法として、活用が増えているそうです。司法書士の先生は、その仕組みや専門用語について、わかりやすく説明してくれました。正直、「こんな対策方法があったのか」と、目からウロコでした。父に判断能力が認められるうちに、父と家族との間で「信託契約」を交わす必要があります。

早速、弟と相談の上、家族信託を活用し、私が父のために実家と父の預金の一部を管理することとし、父と私の間で信託契約を締結することにしました。司法書士の先生は、契約書を作成し、父にもわかるよう、ゆっくり、丁寧にその内容を説明してくれました。また、家族信託専用の口座の開設や実家の名義変更を父から私へ変えるなど、スピーディーにサポートをしてくれました。この契約によって、父の認知症が進行し判断能力を失ったとしても、私が父のために実家を売却できるようになります。

父の認知症は進行。しかし、実家はスムーズに売却できた

実家の売却には予想以上の時間がかかり、ようやく希望価格で買い手が付いたのは、信託契約締結から1年以上先のことでした。その間、認知症が進行し、父の判断能力はかなり衰えてしまっていましたが、家族信託のおかげでスムーズに売却できました。売却代金は、家族信託の専用口座に入金され、施設での父の生活の支えとなっています。

担当した専門家が解説!
「ここがポイント」

認知症などで判断能力が衰えた状態になると、財産の管理や処分を自分でおこなうことができなくなってしまいます。このような「財産凍結」リスクに備える有効な手段の1つが、家族信託です。本事例のように、親御さんを委託者兼受益者、お子さんを受託者として信託契約を締結するのが一般的なパターンです。これにより、親御さんの判断能力が衰えた後も、財産管理全般を受託者であるお子さんができるようになります。

認知症対策となる家族信託ですが、信託契約はれっきとした契約ですので、親御さんが認知症等で判断能力が衰える前に締結する必要があります。本事例では、不動産会社からの紹介で、早めにご相談いただけたことが成功の要因だったと思います。

親御さんの判断能力が衰える前に対策を講じなかった場合、成年後見制度(法定後見)の活用が考えられますが、家族が後見人に選ばれるとは限らず、弁護士等の専門家が後見人に選ばれた場合、毎月2~6万円程度の報酬がかかります。また、柔軟で機動的な財産管理が難しく、被後見人の元自宅の売却には裁判所の許可が必要となります。早めの対策をおすすめします。

解説者プロフィール

廣木 涼

司法書士事務所アベリア

司法書士

廣木 涼

大手司法書士法人で約5年の勤務、相続事業部のマネージャーを務め、独立。 不動産会社や保険会社など様々な業種と連携しながら、士業の枠に捉われず、多角的な視点から、遺言・家族信託等、生前の相続対策に関する総合的なコンサルティングサービスを提供しています。


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