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お世話になった姪への遺贈、認知症が進行して遺言書が作れなくなる前に行動して無事作成

2023/2/27

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この相続事例の体験者

この相続事例の体験者

吉岡 美恵子(仮名)

神奈川県在住。65歳。
父の全財産を父の姪にあたる良子(仮名)に遺贈する旨の公正証書遺言の作成を提案したところ、快諾。しかし準備を進める段階で父に認知症の疑いが。断念を覚悟しながらも作成を進めギリギリ成功。

父の財産をお世話になった従姉妹へ遺贈することを父に提案

私は一昨年、がんの手術を受けました。私の家族は介護施設に入っている父のみ。夫は7年ほど前に亡くなり、子供はいません。私の入院前後の面倒を見るだけでなく、その間の父のケアまでしてくれたのは、いとこの良子(仮名)でした。

がんは再発の恐れもあり、私は終活を考え始めました。私が死んだら、相続人は父になりますが、父は高齢ですし、父にはこの先の生活に不自由しないだけの財産もあります。私の財産はお世話になっている良子にもらって欲しいと思い、父の同意も得て、その旨の 公正証書遺言 を作成しました。

また、父の財産についても考えました。私が父より先に他界した場合、父の相続人は、良子を含む父の甥・姪5人。逆に父が私より先に亡くなった場合、私が相続人となりますが、亡き夫が十分な財産を遺してくれたため、私は父の財産は必要ありません。

そこで、父に全財産を良子に 遺贈 する旨の公正証書遺言の作成を提案したところ、父も良子に感謝していたこともあり、快諾してくれました。

父に認知症の疑いが発覚。大至急、司法書士に相談

しかし、私には、一抹の不安がありました。それは、父に認知症の傾向が出てきていること。認知症の人は 遺言 作成が難しいと知っていましたが、判断能力がしっかりしていれば大丈夫なケースもあると知人から聞き、さっそく介護施設のケアマネさんに父の日頃の様子を聞いてみました。

すると、「お父様は調子のいい日は理路整然と会話できる。遺言作成にチャレンジしてみては?」と励ましてくれました。大至急、私の遺言作成をお手伝いいただいた司法書士に相談、父の遺言内容の文案を用意いただき、公正証書遺言を作成する公証人に介護施設まで出張してもらうことにしました。

いざ、公証人と面談。諸々の状況も鑑みてもらえ、何とか作成完了

その日、父は調子が良かったのですが、公証人さんと対峙すると、緊張のあまり黙り込んでしまいました。公証人さんは、そんな父に「誰に、何を、あげるのですか?」と優しく何度も問いかけます。「全財産を」「姪の良子に」というキーワードを父の口からやっと引き出した公証人さん。「OKです」と笑い、公正証書遺言が作成できました。

父の判断能力の有無としてはギリギリだったみたいですが、今回は、父の相続人が私しかおらず、私が父より先に他界しても、相続人となる甥・姪たちに 遺留分 はなく、揉める要素がないため、意思確認をおこなう公証人さんはその辺を考慮してくれたのだろうと、司法書士の先生はおっしゃっていました。それから数ヶ月で父の認知症の症状は悪化。すぐに動いておいて本当に良かったと思います。

担当した専門家が解説!
「ここがポイント」

遺言作成には、遺言の内容を理解し、遺言の効力を認識できる意思能力を有していることが必要で、これを遺言能力といいます。認知症等で判断能力が不十分となった人の場合、遺言能力は原則認められません。

しかし、認知症の症状はさまざまで、遺言能力の有無の判断は難しいのが実情です。裁判では、診断書・カルテなどの医学資料のほか、遺言作成前後の遺言者の様子、知能検査のスコア、遺言作成の動機と遺言の内容などをもとに、総合的に判断されるようです。

今回の事例では、当日のお父様の様子、ケアマネさんの証言、作成の動機、遺言の内容等を材料に公証人は総合的に判断し、公正証書遺言を作成してくれました。あと数ヶ月遅ければ、難しかったかもしれません。

老親に遺言を作成してもらいたい人に、私は2つの対策を呼び掛けています。まず、形式面では公正証書遺言とすること。公正証書遺言は、公証人が遺言者の遺言能力を認めた場合しか作成できませんので、遺言者の遺言能力をめぐる争いが起こった場合、一定の担保となります(公正証書遺言が無効とされた判例もあり、絶対ではありませんが)。そして最も重要なのは、認知症を疑う余地のない元気なうちに作成することです。

解説者プロフィール

廣木 涼

司法書士事務所アベリア

司法書士

廣木 涼

大手司法書士法人で約5年の勤務、相続事業部のマネージャーを務め、独立。 不動産会社や保険会社など様々な業種と連携しながら、士業の枠に捉われず、多角的な視点から、遺言・家族信託等、生前の相続対策に関する総合的なコンサルティングサービスを提供しています。


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