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認知症対策|任意後見制度と家族信託

2022/12/22

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認知症などで判断能力が衰えてしまうと、自分の財産の管理や処分を単独でおこなうことができなくなってしまいます。また、認知症を患われた方のご家族から「銀行の窓口で預金を引き出すことができなくなった」「実家を売却して、親の介護施設入居費用を捻出する予定だったのに、売却できなくなってしまった」といった話もよく聞きます。

しかし、こうした「資産凍結リスク」は元気なうちに対策を講じておくことで、回避することが可能です。今回は、その対策として有効な任意後見制度と、家族信託について、その概要をご説明したいと思います。

成年後見制度とは?

成年後見制度は、「財産管理」と「身上監護(介護や医療などに関するサービスを受ける上で必要な契約の締結等)」を中心に判断能力が衰えた人を支援する制度で、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つがあります。一般に成年後見制度という場合、法定後見制度を指します。

法定後見制度は、本人の判断能力が衰えてしまった後、配偶者や四親等以内の親族等が家庭裁判所に申立てを行い、後見人等を選任してもらう制度です。本人の判断能力の状態に応じ、「後見」「保佐」「補助」の類型があり、「後見」の利用が全体の約80%を占めています。後見人には、親族ではなく、弁護士や司法書士などの専門家が選任されるケースも多く、この場合、本人の財産額に応じ、月額2~6万円程度の報酬が発生します。

法定後見制度においては、柔軟で機動的な財産管理が難しく、リスクを伴う資産運用や 相続税 対策のための生前贈与などは、原則認められません。また、本人の居住用不動産の売却には裁判所の許可が必要となります。

任意後見制度とは? 元気なうちにできる認知症対策①

任意後見制度は、将来、判断能力が衰えた場合に必要な支援が受けられるよう、本人が元気なうちに信頼できる人との間にあらかじめ契約(任意後見契約)を結んでおく制度です。契約の相手方(任意後見受任者)は、家族など、自由に選ぶことができ、判断能力が衰えた後の支援の内容や後見人の報酬などについても契約で自由に決めることができます。代理権目録に盛り込んでおけば、裁判所の許可を得ることなく、本人の居住用不動産を売却することも可能です。

契約締結後、本人の判断能力が衰えてきた場合、家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てをおこないます。任意後見監督人は、任意後見契約に基づく支援が適切に執りおこなわれるかどうかをチェックする役割を負っており、通常は弁護士、司法書士などの専門家が選任されます。家庭裁判所が任意後見人監督人を選任した時点で任意後見契約が発効し、任意後見受任者は任意後見人となって、契約に基づく支援を開始します。

法定後見制度と比べ、自由度が高く、本人の希望を反映した支援が受けられる点が魅力ですが、任意後見監督人への報酬(本人の財産額に応じ、月額1~3万円程度)の支払い負担や任意後見監督人への報告負担を重荷に感じる人も多く、今ひとつ実利用が進んでいないのも事実です。なお、身寄りのない人にとっては、元気なうちにできる唯一無二の認知症対策と考えられ、弁護士や司法書士などの専門家との間に契約を締結している人もいます。

家族信託とは? 元気なうちにできる認知症対策②

家族信託とは、「元気なうちに財産を信頼できる家族に託し、託された家族が信託の目的に沿って、管理・処分を行う財産管理の方法」です。財産を託す人を「委託者」、託される人を「受託者」、信託によって利益を受ける人を「受益者」、託される財産のことを「信託財産」といいます。家族信託を設定する場合、まず、委託者と受託者が「信託契約」を締結します。親(委託者)が自らを受益者として、子(受託者)に財産管理を託すケースが一般的です。

親が所有し、居住している自宅を子に信託する場合、多くのケースでは、親が「委託者兼受益者」、子が「受託者」となります。この場合、自宅の名義は「受託者である子」に変わりますが、子はあくまでも親のために管理・運用・処分をおこなうことから、名義が変わっても贈与税が発生することはありません。

また、親の介護施設入居に際し、自宅を売却することになった場合、売却手続きは、「受託者である子」が単独でおこなうことになります。このため、売却の段階で親の判断能力が衰えていたとしても、売却手続きが滞ることはありません。売却代金は、子が管理する家族信託用の口座で受け取ることができ、以後、親のために活用することが可能です。家族信託には任意後見制度のように身上監護の機能がありませんが、信頼できる家族がいる場合、介護施設の入居契約などは、家族としての立場で対応できることが多く、大きな問題になるケースは少ないようです。

認知症を発症し、判断能力が不十分な状態になると、財産管理に支障が出るばかりではなく、遺言の作成や生前贈与などの相続対策もできなくなってしまいます。親御さんが元気なうちに、財産管理についての認知症対策とあわせて、相続対策についても話し合っておきたいですね。

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一般社団法人シニアライフよろず相談室

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