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遺産分割協議を先延ばしにすることによるリスク

2022/12/8

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被相続人が遺言書を作成しておらず、相続人が複数いる場合、相続人全員による「遺産分割協議」で遺産分割の内容を決定します。遺産分割協議は相続人全員の同意が必要で、一人でも反対する人がいると成立しません。

遺産分割自体には法律上の期限はありませんが、先延ばしにすることで思わぬ不利益を被ることがあるため、注意が必要です。以下、詳しく見ていきましょう。

遺産分割を先延ばしにすることで起こるリスク

相続人の誰かが亡くなると遺産分割が複雑になる

遺産分割協議 を先延ばしにしている間に相続人の一人が亡くなってしまうと、その相続人の相続が開始してしまうリスクがあります(数次相続)。この場合、最初の相続(一次相続)における相続権が、続いて発生した相続(二次相続)の相続人に引き継がれます。このため、一次相続の遺産分割協議に二次相続の相続人も参加することになります。このようなことが繰り返されると、一次相続の相続人が増え続け、遺産分割がますます複雑で大変なものとなってしまいます。

相続人の誰かが認知症を発症すると成年後見人を選任する必要がある

高齢の相続人が、認知症により判断能力を失ってしまうリスクがあります。判断能力を失った人の意思表示は無効とされますが、遺産分割協議は相続人全員でおこなう必要があり、認知症となっても相続人として除外することはできないため、代理人を選任する必要があります。

具体的には、家庭裁判所に成年後見人選任の申し立てをおこなうのですが、選任の手続きには数ヶ月の時間を要します。成年後見人には、裁判所が選任した弁護士等の専門家が就任することも多く、この場合、当該専門家に対する報酬が発生します(本人の財産額に応じ、月額2~6万円程度が目安となります)。

成年後見人制度は、一旦利用を始めると、本人の判断能力が回復しない限り、途中でやめることはできず、生涯にわたってこの報酬を支払い続けることになります。

相続税額を小さくできる特例が使えなくなる

相続税 の申告については、「相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」と期限が決まっています。この期限までに遺産分割協議がまとまらない場合、未分割のまま、いったん法定相続分で分割したと仮定して、相続税の申告・納税をおこなうことになります。

未分割で申告をおこなう場合、「配偶者の税額軽減の特例」「小規模宅地等の評価減の特例」など、相続税額を小さくする上で有効な特例を使うことができず、こうした特例を活用できた場合と比べ、納税額が大きくなってしまいます。遺産分割協議がまとまった後、特例を活用して申告をやり直し、最初に申告・納税した相続税額との差額の還付を受けることも可能ですが、最初の申告・納税時の納税額が大きく、相続人の資金繰りを圧迫するリスクがあります。

不動産の機動的な売却や有効活用のチャンスを逃す

遺産分割協議が未了の場合、相続財産は、相続人全員で共有している状態です。相続財産の中に不動産がある場合、好条件で購入したいという買い手が現れることもあるでしょう。しかし、共有されている不動産を売却する場合、共有者全員の同意が必要です。また、第三者に賃貸する場合、共有者の持ち分価格の過半数の同意が必要(土地の賃貸で5年、建物の賃貸で3年を超える場合には、共有者全員の同意が必要)です。共有者である相続人の同意を得るのに時間がかかり、チャンスを逃してしまうリスクがあります。

遺産分割協議に関わる法改正

「特別受益」「寄与分」の主張の期間制限

2001年4月の民法改正により、「特別受益」「寄与分」の主張に「相続開始後10年」の期間の制限が設けられることになりました(2023年4月1日施行)。特別受益や寄与分は、遺産分割協議において揉めやすく、遺産分割協議が長期化する要因の一つとなっており、早期決着を促す観点から主張できる期間に制限を加えたものです。これにより、相続開始から10年以上経過後に起こされた遺産分割調停においては、裁判所は法定相続分による分割しか認めないということになります。

なお、「相続開始時から10年経過または改正法施行時から5年経過のいずれか遅い時」までに、遺産分割調停が申し立てられた場合は例外とされており、また、裁判所の調停・審判によらず、相続人全員の合意ができる場合は、法定相続分にこだわらない分割が引き続き可能です。

相続登記の義務化

同じく2021年4月、 相続登記 を義務化する改正法案が可決され、2024年4月1日から施行されることになりました。改正法施行後は、相続人が相続や遺贈で不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務化され、正当な理由なくこれを怠った場合は10万円以下の過料が課されることとなります。

このように、遺産分割を先延ばしにするリスクは小さくありません。相続が発生したら早めの実施を心掛けましょう。

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一般社団法人シニアライフよろず相談室

一般社団法人シニアライフよろず相談室は、信頼できる提携の専門家・企業とのネットワークを活かし、相続・終活など、シニアのさまざまなお悩みをワンストップで解決できる相談窓口を運営しています。毎週金曜日、夕刊フジにコラム「シニアライフよろず相談室」を連載中。