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自筆証書遺言|法改正で解消されたポイント

2023/3/28

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これまで自筆証書遺言は、公正証書遺言と比較した場合に、主に以下のようなデメリットがありました。

A.財産目録を含め全文を自書する必要があり手間がかかる
B.紛失、隠匿、改ざん等のリスクがある
C.相続人等に見つけてもらえない可能性がある
D.相続開始後、家庭裁判所での検認が必要であり面倒
E.形式不備による無効リスク、それによって相続人間で揉めるなどトラブルとなるリスクがある

しかし、2019年1月13日施行の「自筆証書遺言の方式の緩和」と2020年7月10日にスタートした法務局(遺言書保管所)での「自筆証書遺言書保管制度」により、自筆証書遺言の使い勝手が大きく向上したと言われています。自筆証書遺言のデメリットはどこまで解消され、どのような問題点が残っているのか、検証したいと思います。

「自筆証書遺言の方式の緩和」で財産目録の作成が楽に

まず、 自筆証書遺言 の方式の緩和について。これにより、自筆証書遺言の財産目録部分は、手書きではなく、パソコンやワープロなどでの作成が認められることになり、預金通帳のコピー、不動産の登記事項証明書等を添付することも認められるようになりました(添付する財産目録の全頁に遺言者の署名捺印が必要)。

財産目録 を全て自書するのは骨の折れる作業で、記載ミスが発生するリスクもあります。方式の緩和により、冒頭に掲げたデメリットのうち、「A.財産目録を含め全文を自書する必要があり手間がかかる」は、ある程度解消されたと言えます。

「自筆証書遺言書保管制度」で安全な保管と存在の認識が可能に

遺言の原本と画像データを安全に保管してもらえるように

次に、自筆証書遺言書保管制度について。遺言者の自宅に保管されることが多かった自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)で保管してくれるという制度で、遺言書は原本に加え、画像データとしても長期間適正に管理されます。これにより、デメリットであった「B.紛失、隠匿、改ざん等のリスクがある」が解消されます。また、この制度を活用した場合、相続開始後の家庭裁判所における 検認 は不要となるため、「D.相続開始後、家庭裁判所での検認が必要であり面倒」についても解消されたことになります。

2つの通知制度で遺言の存在を認識できるように

自筆証書遺言保管制度の最終的な目的は、遺言者の死亡後、相続人、受遺者遺言執行者 等(以下「相続人等」)に遺言書の存在と内容を知ってもらうことです。このため、自筆証書遺言保管制度においては、以下の2つの通知制度が用意されています。この制度によって「C.相続人等に見つけてもらえない可能性がある」も解消されています。

関係遺言書保管通知

遺言書はデータでも管理されているため、遺言者の死後、相続人等は、全国どこの法務局においても、データによる遺言の閲覧や遺言情報証明書の取得が可能となります。そして、相続人等の誰かが遺言書を閲覧したり、遺言書情報証明書の交付を受けたりした場合、関係遺言書保管通知制度によって、遺言書保管官が、その他の相続人等全員に対し、遺言書が保管されている旨の通知をおこないます。これによって相続人等の全員が遺言書の存在を認識することができます。

指定者通知

指定者通知は、遺言書保管官が遺言者の死亡を確認した際、あらかじめ遺言者が指定していた相続人等の1名に対し、遺言書が保管されている旨の通知をおこなう制度です。通知を受けた1名が遺言書の閲覧等をおこなうことにより、上記の関係遺言保管通知がおこなわれ、結果として、全ての相続人等が、遺言書が保管されていることを知ることになります。

遺言の内容についてのアドバイスは受けられない

法務局(遺言書保管所)は、「日付の記載がない」「押印がない」といった形式不備は指摘してくれますが、「遺言執行者が指定されていない」「書き方があいまいで、 相続登記 等の手続きに支障が出る恐れがある」といった自筆証書遺言にありがちな問題点を指摘してくれることはありません。よって、「E.形式不備による無効リスク、それによるトラブルリスク」については、残念ながら解消されません。

まとめ

冒頭に掲げた自筆証書遺言のデメリットは、いずれも 公正証書遺言 には無縁のものです。コストはかかりますが、「やはり公正証書遺言が安心」というのが、多くの専門家の一致した見解です。「どうしても自筆証書遺言を選択したい」という場合は、できれば弁護士、司法書士等のアドバイスを受けながら作成することを強くおすすめします。また、自宅等で保管せず、必ず自筆証書遺言書保管制度を活用するようにしましょう。

なお、自筆証書遺言書保管制度を活用する場合、遺言者本人が法務局(遺言書保管所)に出頭する必要がありますので、遺言者が元気なうちに遺言の作成および保管申請の手続きを済ませるようにしましょう。

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一般社団法人シニアライフよろず相談室

一般社団法人シニアライフよろず相談室は、信頼できる提携の専門家・企業とのネットワークを活かし、相続・終活など、シニアのさまざまなお悩みをワンストップで解決できる相談窓口を運営しています。毎週金曜日、夕刊フジにコラム「シニアライフよろず相談室」を連載中。