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予備的遺言の活用

2023/1/30

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遺言で指定した財産を相続させる(もしくは遺贈する)相手が、遺言者より先に亡くなってしまった場合、遺言の効力はどうなるでしょうか?今回はこの点について、事例を通じて考えてみたいと思います。

事例 ~遺言作成にあたってのAさんの疑問~

Aさん(70代女性)は、数年前にご主人を亡くし、子供はいません。ご両親も既に亡くなっており、相続人はAさんの弟さんと妹さんの2名となります。弟さんとはもともと仲が良くなく、もう10年あまり連絡を取り合っていません。一方、近所に住んでいる妹さんとは仲が良く、妹さんの一人息子(Aさんの甥)もAさんのことを何かと気にかけてくれています。

Aさんは、自分の死後、妹さんに全財産を相続させる内容の 遺言書 を作成したいと考えています。兄弟姉妹には 遺留分 (一定範囲の相続人に認められる最低限の遺産取得分)がありませんので、遺言による弟さんの遺留分侵害の問題もありません。しかし、Aさんには不安があります。妹さんはAさんと年齢が4歳しか違わず、持病もあります。「『妹に全財産を相続させる』という内容の遺言書を作成しておけば、仮に妹が私より先に亡くなっても、私の財産は、自動的に甥っ子のものになるのかしら?」というのがAさんの疑問です。

遺言には代襲相続が適用されない

遺言には、 代襲相続 が適用されません。遺言で指定した財産を相続させる(もしくは 遺贈 する)相手が遺言者よりも先に亡くなってしまった場合、遺言の当該死亡者に関する部分は効力を失ってしまいます(遺言全体が無効となるわけではありません)。

そうなると、遺言で指定されていた財産は、 法定相続人 の共有財産ということになります。妹さんがAさんより先に亡くなり、Aさんの死亡時点で弟さんがまだ存命中だった場合、Aさんの相続人は弟さんと甥御さん(妹さんの代襲相続人)の2名となり、両者で 遺産分割協議 をおこなうことになります。Aさんの思惑とは違った結果になってしまうのです。従って、「妹に全財産を相続させる」という内容の遺言書を作成するだけでは不十分で、何らかの対策を講じておく必要があります。

予備的遺言の活用

上記の事例のようなリスクは、「予備的遺言」を活用することで、回避することが可能です。予備的遺言とは、遺言で指定した財産を相続させる(もしくは遺贈する)相手が遺言者よりも先に亡くなってしまう事態に備え、遺言の中で更に次の相続人(もしくは受遺者)を指定しておく仕組みです。Aさんの場合、遺言書の中に「Aの死亡前またはAと同時に妹○○が死亡した場合、全財産を妹の長男○○に相続させる」といった一文を追加しておくことで、自分の財産を思惑通りに相続させることができるのです。

遺言で財産を相続させる(もしくは遺贈する)相手として、遺言者と年齢の近い人を指定する場合は、予備的遺言をしっかり残しておくことが重要です。ご自身が上記の事例の妹や甥の立場に該当する場合、遺言者にアドバイスしてあげると良いでしょう。

公正証書遺言のススメ

自筆証書遺言 の方式要件の緩和(2019年1月13日施行)」により、自筆証書遺言の 財産目録 部分については手書きではなく、パソコン等で作成した目録のほか、預金通帳のコピー・不動産の登記事項証明書等を添付することが可能になりました(ただし、添付した全頁に遺言者の署名・押印が必要)。

また、「法務局での自筆証書遺言書保管制度の開始(2020年7月10日施行)」により、法務局で保管してもらった遺言については、検認手続きが不要となりました。自筆証書遺言の使い勝手は、かなり良くなったと思います。

しかし、法務局での保管制度を利用したとしても、法務局の窓口で遺言の内容に関する相談に応じてくれたり、内容が適正かどうかチェックしてくれることはありません。このため、法務局が保管してくれたからといって、その遺言書が有効で、遺言者の思いを実現する上での死角がない「使える遺言書」である保証はありません。

一方、 公正証書遺言 は、作成にコストがかかるという理由で敬遠されることもありますが、法律のプロである公証人が作成するため、遺言書が無効となるリスク、相続登記等の実務に支障をきたすリスクが極めて小さいというメリットがあります。予備的遺言の活用など、適切なアドバイスも間違いなく得られると思います。作成コストは安心料と考え、公正証書遺言を選択されることをおすすめします。

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一般社団法人シニアライフよろず相談室

一般社団法人シニアライフよろず相談室は、信頼できる提携の専門家・企業とのネットワークを活かし、相続・終活など、シニアのさまざまなお悩みをワンストップで解決できる相談窓口を運営しています。毎週金曜日、夕刊フジにコラム「シニアライフよろず相談室」を連載中。