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財産目録を作るメリットと作り方

2022/11/4

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相続において、すべての遺産を把握できていない状況では、相続人の間でどのように分けるのか話し合うことができません。相続をスムーズに進めるためにすべての遺産を一覧化した財産目録を作成することをおすすめします。

また、財産目録は相続放棄をするかどうかの判断材料になったり、遺言書で遺言執行者が指定されている場合は作成が必須だったりします。

ここでは、相続を進める際にさまざまな判断を下すための情報として重要になる、財産目録の作り方について説明していきます。

財産目録とは?

財産目録 とは、不動産や預貯金などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産を含め、すべての財産を漏れなくリスト化したものです。

《財産目録例》
《財産目録例》

財産目録には定形の書式はありませんが、例えば、預貯金であれば、金融機関名、支店名、種別、口座番号、死亡時の残額などを明記し、一つひとつの財産が容易に特定できるように記載します。

財産目録を作るメリット

財産目録は必ず作成しなければいけない書類ではありませんが、作成することで次のようなメリットがあります。

・申請期限のある相続放棄や限定承認の判断がしやすくなる
・遺産分割協議がスムーズになる
・相続税の申告が必要かどうかの判断がしやすくなる

また、下記の手続きをおこなう場合は財産目録の提出が求められるため、財産目録の作成が必要になります。

  • 限定承認 の申述をおこなうとき
  • 遺言執行者 が選任されたとき

財産目録を作るには?

財産目録を作成するためには、預貯金、不動産、有価証券、生命保険、借金・債務などの被相続人が死亡時に有していたすべての財産を洗い出す必要があります。それぞれの財産に関して、調査すべき項目と調査の方法についてのポイントをご説明します。

預貯金の調査

調査項目は、金融機関名、支店名、種別、口座番号、残高などです。

残高については、口座のある銀行に死亡日(相続開始日)の日付で残高証明書を発行してもらい、その金額を記載します。残高証明書には、被相続人がその銀行で取引しているすべての口座が記載されるため、家族の知らない口座での借り入れが発覚するということもあります。そのため、通帳に記載されていたとしても残高証明書の発行を依頼することをおすすめします。

一般的な調査の方法は、以下のとおりです。

①通帳やキャッシュカードを探す
②銀行名の記載された書類などを探す
③銀行からの郵便物を探す
④自宅もしくは会社に近い銀行に照会してみる
⑤携帯電話やパソコンのメールをチェックする
⑥依頼実績のある税理士に照会する

不動産の調査

調査項目は、物件の所在/地番、地目、家屋番号、種類(土地・建物)/構造、面積(床面積・地積)、評価額などです。固定資産税納税通知書や不動産の権利証、あるいは最寄りの登記所で手数料を支払えば、誰でも取得可能な「登記簿謄本/登記事項証明書」に項目事項の記載があります。

不動産の評価額については、固定資産税の課税明細書にある固定資産税評価額を目安として記載します。

一般的な調査の方法は、以下のとおりです。

①固定資産税納税通知書を探す
②権利証や登記書類を探す
③市区町村役場で名寄帳を入手する

なお、令和8年4月までに、法務局の登記官が特定の被相続人について、登記簿上の所有者として記録されている不動産を一覧化し証明する「所有不動産記録証明制度(仮称)」が設けられることになりました。

この制度によって、ここで説明した不動産の調査をおこなわなくても、法務局で手続きをすれば、被相続人が所有していた不動産を概ね一覧として取得できるようになります。

有価証券の調査

証券会社に預けているときには、証券会社名、口座番号、その口座の保有銘柄・株数などを記載します。証券会社でも残高証明書を発行してくれますが、残高証明書では端株は記載されないため、「配当金支払通知書」といった自宅に届く書類で確認します。評価額は、死亡日(相続開始日)の株価を記載します。

相続税の申告では、銘柄ごとに、相続開始日・その月の平均価格・前々月の平均価格・前月の平均価格のうちで最も低い単価が適用されます。配当の未払金があれば、これも相続財産に含まれますので記載が必要となります。

一般的な調査の方法は、以下のとおりです。

①証券会社や金融機関からの郵便物を探す
②四半期ごとに届く報告書を探す
③通帳で配当金の振込履歴を探す
④携帯電話やパソコンのブックマーク、メールをチェックする
⑤「証券保管振替機構」(略称は「ほふり」)に「登録済加入者情報の開示請求」をする

生命保険の調査

生命保険は、契約者(=保険料負担者)・被保険者・受取人がそれぞれ誰なのかによって相続財産となるケース、 みなし相続財産 となるケース、相続財産・みなし相続財産どちらにもならないケースと3つのパターンに分かれます。相続財産になるケース、みなし相続財産となるケースでは、財産目録に記載します。

みなし相続財産とは、本来は被相続人の固有の財産ではありませんが、被相続人が亡くなったことによって相続人のものになる財産のことを言います。みなし相続財産は遺産分割の対象にはなりませんが、相続税の計算をする際は相続財産とみなされ、相続税申告の対象になるため財産目録への掲載が必要になります。

<相続財産となるケース>

契約者(=保険料負担者)が被相続人、被保険者が被相続人以外の生命保険契約の場合は、被保険者が死亡したわけではないので死亡保険金の支払いはありませんが、被相続人の死亡によって契約していた生命保険の解約による解約返戻金が発生します。契約者である被相続人は解約返戻金を受け取る権利を有するため、解約返戻金を相続財産として財産目録に記載します。

<みなし相続財産となるケース>

契約者(=保険料負担者)・被保険者が被相続人で、被相続人以外が死亡保険金を受け取る生命保険契約の場合は、死亡保険金は受取人固有の財産として遺産分割の対象にはならないものの、みなし相続財産として相続税の課税対象となるため、死亡保険金を財産目録に記載します。

<相続財産・みなし相続財産どちらにもならないケース>

被保険者が被相続人で、契約者(=保険料負担者)・受取人が被相続人以外の生命保険契約の場合、被相続人が契約者(=保険料負担者)ではないため、相続財産にもみなし相続財産にもなりません。契約者と受取人が同一人物であれば一時所得として所得税・住民税、別人であれば贈与税がかかります。

上記の内容を下の表にまとめました。生命保険が相続財産やみなし相続財産になるケースは、契約者(=保険料負担者)が被相続人の場合であることがわかります。

契約者被保険者受取人対象
相続財産になる場合被相続人被相続人以外の人被相続人または
被相続人以外の人
解約返戻金
みなし相続財産になる場合被相続人被相続人被相続人以外の人死亡保険金
相続財産・みなし相続財産に
ならない場合
被相続人以外の人被相続人被相続人以外の人死亡保険金

一般的な調査の方法は、以下のとおりです。

①生命保険会社からの郵便物を探す
②被相続人の預貯金口座から引き落としがないか探す
③市民税・県民税証明書、確定申告書、源泉徴収票などの生命保険控除欄を見る

車・貴金属の調査

自動車や貴金属も財産的な価値があるなら相続財産の対象となります。評価額については査定業者に依頼します。

借金・債務の調査

種類としては、「カードローンの負債」「消費者金融からの借り入れ」「事業用ローンや融資の残額」「個人からの借金」「家賃・水道光熱費・携帯電話料金等の滞納」「未払いの固定資産税」などです。

また、誰かの保証人になっているかも心あたりがある範囲で調べてみましょう(特に生前に事業をおこなっていた場合など注意しましょう)。

一般的な調査の方法としては、以下のとおりです。

①借用書、請求書、督促状などの証拠資料を探す
②消費者向けのローンは、JICCやCIC、KSCといった信用情報機関に情報開示の請求をする
③銀行口座で毎月一定金額の引き落とし実績を確認する
④不動産の抵当権設定を確認する

相続財産調査に必要なもの

相続財産の調査をするにあたって、被相続人と調査をする人との間に相続関係が発生していることを示す戸籍謄本や除籍謄本を収集する必要があります。

例えば、銀行などに情報の開示を請求した場合は、「相続人であることを示す戸除籍謄本」の提出を求められます。被相続人との関係が配偶者や親子であれば、提出する戸籍謄本も少なくて済みますが、兄弟姉妹であったり、甥・姪であったりすると、膨大な数の戸除籍謄本を集めることが必要となる場合もあります。

相続財産調査をするにあたっては、最低限、以下の書類を準備しておきましょう。

①被相続人の死亡が確認できる戸除籍謄本
②被相続人と調査をする相続人との関係がわかる戸籍謄本
③調査をする相続人の顔写真付き身分証明書(運転免許証やマイナンバーカードなど)

情報開示の請求先によって必要な提出書類も変わってきますので、あらかじめ請求先に照会されることをおすすめします。

まとめ

正確な財産情報が相続人間で共有されていないと、不信感や疑念が生まれ、相続トラブルに発展する可能性が高まります。

また、遺産分割協議後に新たな財産が見つかり協議をやり直さなければいけなくなるなど、財産目録がないことで、相続手続きはさらに煩雑なものになるでしょう。

財産が多ければ多いほど、財産目録の作成は大変な作業になりますが、スムーズに、そして円満に相続を終えるために、財産目録を作成することをおすすめします。

監修

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司法書士法人松野下事務所/
一般社団法人エム・クリエイト

松野下グループは、超高齢社会の様々な不安、困り事を登記部門として「司法書士」が、資産コンサルティング部門としてシニア層に特化した「ファイナンシャルプランナー」が、各専門家と連携して、より高度で充実したコンサルティングをおこなっております。